SiCや遷移金属シリサイドなどに代表される硬質材料は,その名の通り非常に高い強度をもち,複合材料の強化相としてだけでなく,それ自身も超高温材料として期待されている.実用上の問題はその脆さにあり,硬質材料の変形開始温度は1000℃近傍にも達する場合が多く,それ以下の温度では変形能を全く示さない.しかし,最近の我々のマイクロピラー試験片を用いた研究から,このゆな硬質材料でバルクでは発現しない低温変形能が存在することが明らかとなりつつある.本研究では, SiC,遷移金属シリサイド単結晶を用いて,破断が先行するバルクでは発現しない新規な力学物性である「脆性硬質材料の低温変形能」をそのメカニズムとともに転位核生成の臨界体積(活性化体積)という新規な観点から解明することを目指した. 6H多形のSiC単結晶を唯一のすべり系である底面aすべりが活動する方位で圧縮すると,バルクでは最低でも1000℃の変形温度が必要であるが,ミクロンオーダー(1~10μm)のマイクロピラー試験片では4GPa程度の非常に高い臨界分解せん断応力(CRSS)を伴って室温でも底面aすべりの活動が可能である.底面すべりが活性化しない六方晶a軸方向から圧縮しても,マイクロピラー試験片では室温でも8GPa程度の非常に高いCRSSを伴って柱面aすべりの活動により変形能が生じた.興味深いのは,試験片サイズをサブミクロンオーダーまで小さくしても,そのCRSSは殆ど試験片サイズに依存せず一定値を示すことである.遷移金属シリサイドでも同様に低温変形能が観察された.これらの事実は,(1)バルクとは異なる新規で特異な変形機構が低温(室温を含む)で働いており,(2) このCRSSは転位の核生成応力そのものであり,転位移動の活性化体積と同等あるいはそれより少し小さな転位核生成の臨界体積が存在する可能性を示唆している.
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