アルミニウムや銅等の延性金属多結晶の強度は,結晶粒径が小さくなるほど高く,試料サイズが小さくなるほど低くなることが広く知られている.転位の運動が困難になるまで結晶粒を微細化する(~数十nm以下)と延性が低下し脆性的な破壊を示す場合があるが,このような超微細粒多結晶(ナノ結晶)金属をMEMS(Micro Electro Mechanical Systems: 微小電気機械システム)等の構造材料として利用する際,その破壊靭性値はMEMSの設計上極めて重要な因子となるにも関わらず,微小寸法領域におけるサイズ依存性は全く調べられていない.本研究では,微小寸法試料の強度評価装置を応用した破壊靭性評価法を用いて,結晶粒径を超微細化することにより脆化してしまったナノ結晶金属の破壊靭性値の試料サイズ効果を調査することを目的とする. 微小寸法試料による破壊靭性評価法として,ダブルカンチレバー型およびシェブロンノッチ入り片持梁型の2通りを候補として挙げたが,シリコンを用いた予備実験によりシェブロンノッチ入り片持梁型の評価法の方が,試料作製がより簡便でかつ破壊靭性値の再現性が高いことを確認した.パルス電析法により作製した超微細粒ナノ結晶銅板材から,集束イオンビーム装置を用いてシェブロンノッチ入り片持梁型微小試料を切削加工し,ダイヤモンドフラットパンチを備えたナノインデンテーション装置において曲げ破壊試験を行った.変形速度(2桁)および試料サイズ(1桁)を変えても曲げ破壊挙動に差異はほとんど無く,試料サイズ依存性は無い,もしくはほとんど無いことを明らかにした.
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