研究課題/領域番号 |
26630349
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
辻岡 強 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (30346225)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 真空蒸着 / 表面 / 高分子 / 金属パターニング / ガラス転移点 |
研究実績の概要 |
本研究は高分子表面にマスクレス真空蒸着によって、微細な金属パターンを形成する技術の開発を目的としている。従来はこのような金属パターン形成は、主にシャドウマスクを用いた真空蒸着が用いられてきたが、本研究ではガラス転移点(Tg)が異なる材料からなる有機膜表面での選択的金属蒸着現象を拡張し、比較的高いTgを有する単一の高分子半導体表面でも、所望の金属パターンをマスクレス蒸着で形成可能にするものである。 今年度の研究では、単一の比較的高いTgを有する高分子半導体膜に有機溶剤を少量塗布・蒸発させた表面状態が、低Tg高分子膜と同様に金属Mg蒸気原子を堆積させないことを確認した。典型的高分子半導体材料であるMEH-PPV(Tg=70℃)及びP3HT(Tg=110℃)をそれぞれクロロホルムに溶解し、ガラス基板上にスピンコート法で塗布・乾燥することで高分子半導体膜を形成した。これにシクロヘキサノン溶媒を極少量滴下して1時間真空乾燥後Mgを真空蒸着したところ、溶媒が滴下されなかったところにはMg膜が形成され、滴下した箇所にはMg膜が形成されなかった。 別途AFMフォースカーブ法で、この溶媒滴下・乾燥領域と非滴下領域の表面硬度を比較したところ、滴下領域表面が顕著に軟化していることが判明した。この原因としては残留溶媒の影響と、溶媒蒸発に基づく表面高分子鎖間隔の広がりによる移動度の向上(高分子鎖の運動の活発化)の二通りが考えられる。しかしながら、FTIR-ATR法によって表面残留溶媒は検出されず、原因は後者であると結論され本研究の原理的な確認に成功した。 今年度は、さらにMg以外の金属種への可能性も検討し、MnやPbでも可能であることが判明し、また応用展開としてこの手法によるMEH-PPVを発光層とするポリマーELの陰極パターニングも実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、高分子表面における金属原子の離脱(=非堆積)現象の原因解明手段として、AFMフォースカーブ法とFT-IR ATRによる残留溶媒の有無を調べることとしていた。今年度は計画に基づき、汎用のポリスチレンなどだけでなく高分子半導体膜においても上記評価を行い、この研究の原理的な実証が行えた。また他の金属種として、PbやMnに対する非堆積現象も実証することができた。さらにスタンプ法による溶媒印刷で、MEH-PPVを発光層とする高分子ELのMg陰極パターニングを行い、それに対応する発光パターンも確認できた。尚、計画調書に記載していたAuに対する非堆積は、現状のところ極めて困難であり、今後のさらなる研究が必要である。 以上より、本研究は当初の計画通り進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果を受けて、今年度は高分子半導体表面への溶媒印刷とマスクレス金属蒸着による微細金属パターニングの解像度限界を調べる。金属パターンの解像度を調べるには、微細な溶媒印刷が必要であるが、インクジェット法による直接的な微細溶媒液滴印刷を行う代わりに、溶媒ミスト噴霧法を利用する。有機溶媒ミストは数十ミクロンサイズなので、高分子膜にそれに相当する液滴塗布領域ができることになる。これに金属蒸着を行い、対応する金属非堆積領域が形成されるようする観察することで、金属パターニングの解像度を調べることができる。 これが達成できれば、高分子エレクトロニクスの新しい微細な金属電極形成方法として有望であろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末執行分の旅費・物品費に、若干の誤差が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度の若干の残額は、今年度物品費として使用する。
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