研究課題
昨年度の研究により、固相窒素吸収処理によりSUS304鋼の表層部に形成させた安定オーステナイト層は環境からの水素侵入を防ぎ、耐水素脆化特性を高めることを明らかにしたが、水素環境下における本鋼板の実際の使用を想定した適切な安定オーステナイト層の厚さについての評価はなされていなかった。本年度は固相窒素吸収処理の条件を変化させることにより安定オーステナイト層厚さを種々変化させ、電解陰極水素チャージにより吸蔵される水素量の調査を行った。その結果、86.4 ksの長時間の固相窒素吸収処理を行った1.0 mm厚のSUS304鋼板ではオーステナイトが深部まで安定化され、今回の検討範囲内では水素脆化を発現することがないことが確認された。一方、短時間の固相窒素吸収処理の場合にもその効力は顕著であり、0.18 ksの短時間の処理で形成される厚さわずか18.8 μmの薄い安定オーステナイト層であっても、86.4 ksもの長時間の電解水素チャージでもほとんど水素の侵入を許さず、高い耐水素侵入抑制効果を示すことが明らかになった。実用上必要な安定オーステナイト層厚さを一概に決定することはできないが、水素の拡散距離がオーステナイト層の厚さを越えると水素脆化が発現してしまうことが確認されているため、オーステナイト中での水素の拡散距離を計算することで、環境や使用の条件に合わせた最適なオーステナイト層の厚さ、すなわち固相窒素吸収処理条件の見積もりが可能であることも示した。以上の結果は、従来は水素環境で使用することが困難とされていたSUS304鋼板を高価なSUS316L鋼板の代替として使用できる可能性を示唆したものであり、経済的にも重要な価値を与える研究成果である。
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International Journal of Hydrogen Energy
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