研究課題/領域番号 |
26630355
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
上田 正人 関西大学, 化学生命工学部, 准教授 (40362660)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体材料 / 光化学反応 / 細胞 |
研究実績の概要 |
§1 光応答する酸化物膜の合成:Ti(OC3H7)4を主原料としたゾル・ゲル法で石英基板上にTiO2膜をスピンコーティングした。NH3, Ca(OH)2中で水熱処理を施すことにより結晶性の高いTiO2, CaTiO3が合成できた。しかし,基板密着性が良好とは言えず,引き続きその改善策を探索している。可視光吸収特性を付与するため,HClに溶解したNbClを添加し,(Ti,Nb)O2膜も合成した。 §2 熱処理:ゾル・ゲル法で合成したTiO2, (Ti,Nb)O2粉末に400-800℃の熱処理を施した。X線回折により,結晶性の向上が確かめられた。熱処理直後,粉末は黄色を呈色し,可視光を吸収していることが確かめられた。 §3 合成膜の諸特性:ゾル・ゲル法でガラス上に合成したTiO2, (Ti0.95Nb0.05)O2に400℃で熱処理を施し,光吸収スペクトルを測定した。Nb添加により,360-420nm付近にも明瞭な光吸収が確認された。Ti上に化学・水熱処理で合成したTiO2の電気化学特性も調べた。180℃で水熱処理したTiO2では,400℃でポスト熱処理することにより,紫外光(UV,波長:365nm)照射下での光電流が3~4倍増加することがわかった。 §4 UV照射下TiO2上での細胞の接着・増殖:マウス由来初代骨芽細胞をTiO2上に播種し,4-72hのUV連続照射を行った。いずれも生細胞数は,暗所下の場合に比べ著しく減少した。次に最初の1h,その後は24h毎に1hずつUV断続照射を行った。4hでは,TiO2上で生細胞数の明瞭な増加が観察された。一方,72hでは,細胞数の減少が認められた。この現象は,UV照射を行ったTiで認められなかったことから,TiO2の光化学反応による接着特性の向上,ならびに増殖の抑制が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
TiO2, ATiO3膜の合成,ポスト熱処理,合成膜のキャラクタリゼーション(光学・光化学特性,表面状態)を予定していた。いずれも,ほぼ予定通り遂行できた。ATiO3膜の合成に関しては,基板密着性に問題があったため,継続して改善法を探索している。その代替として,TiサイトをNbで置換した膜の合成を進めた結果,(Ti0.95Nb0.05)O2で可視光吸収特性を確認するに至った。 当初,H26年度には予定していなかったが,マウス由来骨芽細胞の接着・増殖実験も行うことができた。この実験では,UVの連続照射に加え,断続照射も行い,予想を上回る興味深い結果が得られた。 このように,遂行した実験では,ほぼ想定した結果が得られており,さらに,H27年度に予定していた内容の一部も繰り上げて実施できたことから,研究は順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
§1 可視光応答性の付与と光化学反応の鋭敏化:具体的には下記を行う。(i) ①ゾル・ゲル法,または化学処理により合成した結晶性の低いTiO2膜に対する,Nbイオン含有アルカリ溶液中での水熱処理,または,②結晶性の低い(Ti,Nb)O2に対するアルカリ溶液中での水熱処理によって,結晶性の高いn型(Ti,Nb)O2膜,A(Ti,Nb)O3膜 (A:例えば,Ca)を合成する。(ii) 上記と同様の手法で,ATiO3に不純物添加を行い,p型半導体にする。TiO2をp型化することは不可能であるが,ATiO3では,不純物のAサイト置換,Tiサイト置換が原理上可能であり,バンド構造制御の自由度が高い。光照射下で,n型半導体,p型半導体の表面近傍が正,負に帯電することを確認する。これにより,電気的チャージの制御範囲と用途範囲が格段に拡大する。(iii) 合成したATiO3の表面近傍からA元素をリーチングし,TiO2-ATiO3複合膜,すなわち半導体ヘテロ構造を構築する。これにより,表面近傍の拡散電位が増大し,光応答性を著しく鋭敏化させることができる。 §2 光照射による細胞の接着・増殖・剥離挙動の制御:合成・調整した酸化物膜上に細胞を播種し,細胞を含む培地側(上方)より光照射を行う。紫外光の場合は,断続照射,可視光の場合は,連続照射を基本とする。Ti上に合成したTiO2膜を石英ガラスで密閉した培養器も作製する。Ti側に細胞を播種し,密閉されたTiO2側にUVを下方から照射することで,光照射に由来する電気刺激のみを細胞に与える。細胞を播種し,所定の時間経過後,表面の被覆率,細胞数を測定する。複数の方法によって細胞をカウントすることで,基板上に接着した細胞数,基板から剥離し,培地中に浮遊した生細胞数をそれぞれ測定する。さらに,免疫染色を行い,細胞の形状,大きさ,接着斑数を定量的に観察・評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度に予定していたATiO3膜の合成において,基板密着性に関する課題が明らかとなったため,H27年度に予定していたTiO2へのNb添加に関する研究と順序を変え,研究を遂行した。これに伴い,上記Aサイトの原料となる試薬,それに使用する器具の分が予定の支出より減少した。その実施内容の軽微な変更によって,細胞を使った実験もH26年度に行うことができたので,適正な変更であったと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の残された課題は,H27年度に行う。当初計画していた研究の一部はH26年度に繰り上げて行ったので,H26,H27を総合すると計画通りである。H27年度における研究費は主に,①光照射装置,②細胞関連,③半導体膜合成に使用する。具体的には,①において,照射する波長を制限するためのシャープカットフィルター,光照射装置(光吸収スペクトル測定装置を含む)の光源(Xeランプや重水素ランプ)を購入する。また,②においては,ウェルプレートや血清,蛍光色素等,多岐にわたる消耗品,試薬が必要であり,これらを充足する。③においては,多数のドーパント原料が必要であり,これらを揃える。また,得られた成果に関しては,国内の学会で2回,アメリカで開催される国際会議で1回,研究発表を予定している。
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