研究実績の概要 |
§1 可視光応答性の付与と光化学反応の鋭敏化: Ti(OC3H7)4にNb源として,水に溶解したC10H8N2O33Nb2,もしくはHClに溶解したNbCl5を添加したゾルを用いて(Ti,Nb)O2膜を合成した。後者の合成膜では光吸収スペクトル上にわずかに可視光の吸収が認められたが,光応答性が顕著に向上したとは言えず,更なる工夫が必要であることが示された。 §2 光照射による細胞の接着・増殖・剥離挙動の制御:純Ti基板上にTiO2を化学・水熱複合処理によって成膜した培養器(a),SiO2基板上にTiO2をゾル・ゲル法によって成膜した培養器(b)を作製した。構造(a)の細胞培養器にマウス由来初代骨芽細胞を播種し,4-72 h培養した。培養中,上方から紫外光(UV)を常時照射する「連続照射」と播種直後,および24 h毎に1 h照射する「断続照射」を行った。連続照射を行うと細胞数は暗所下のそれに比べ減少した。さらにTiO2におけるその減少は,Ti(コントロール)のそれに比べ顕著であった。上方からの直接照射によるダメージに加え,基板の光化学反応による効果が重畳したと推察される。一方,断続照射を行うと,細胞数は増加した。UV照射による水酸基密度の上昇が関与したと推察している。構造(b)の細胞培養器では,Hanks液中で背面からUVを照射すると37 nA/mm2の光電流が発生した。また,背面から白色光を照射するとTiO2膜でUVが完全に吸収され,細胞の接着面へは可視光のみ透過された。この培養器に細胞を接着させた後,UVを背面照射すると細胞の一部が剥離することが確認された。このように,TiO2の光化学反応を利用することで,細胞の接着を促進・抑制したり,接着している細胞を剥離したりできる可能性が実験的に示された。
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