研究課題/領域番号 |
26630370
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
山崎 徹 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30137252)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノ結晶 / 水素発生触媒 / 生物酵素 / 電極 / 電解析出法 |
研究実績の概要 |
1)水素発生酵素ヒドロゲナーゼの継続的な供給体制:兵庫県立大学生命理学研究科の樋口教授との連携と研究室の学生の協力によりヒドロゲナーゼの継続的な供給体制を確立した。本研究は超微細加工技術を利用して金属上へヒドロゲナーゼを担持させるのに最適な直径50nm程度の多孔質形状を形成させ、金属-酵素ハイブリッド電極を開発することを目的としている。 2)高比表面積を有する金属電極基板の開発:2-1) Fe24Cr5Mo1Ni70系金属ガラス合金基板を溶融したMg融液中で保持することにより表面をナノポーラス化処理した。表面に数十nm程度の凹凸構造が緻密に形成されており、生体酵素ヒドロゲナーゼを担持させるのに適当な表面構造が得られた。しかしながら、本合金は非常に脆く、今後の機械的性質の改善が必要とされた。2-2) 高強度・高耐食性Ni-W電析合金表面の高比表面積化を目的として、Cu基板表面に黒化処理を施してナノファイバー組織を形成させた後、その表面にNi-W合金を電析することによりナノファイバー構造を転写した。ナノファイバーの直径は20nm~50nm程度で、長さは1000 nmに達している。この表面をNi-W電析により転写すると、直径数十nmの多孔質表面が成形されており。生体酵素ヒドロゲナーゼを担持させるのに適当な表面構造となっていることが確認された。 3)生体酵素ヒドロゲナーゼを上述の転写Ni-W電析合金基板上に担持させ、電位電流曲線を測定した。電極基板試料上に生体酵素溶液を滴下した後、低温室で徐々に乾燥させて金属基板上に物理吸着させた。その後、0.1 mol/Lのリン酸緩衝溶液(pH6.0)中で、電圧掃引速度20 mV/s、電圧0 V~-1.5 Vの条件で測定した。その結果、水素発生電流は、-0.6 V付近から急激に増加しており、ヒドロゲナーゼによる水素発生が計測されたと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水素発生酵素ヒドロゲナーゼの継続的な供給体制が確立され、今後の研究が安定的に継続できる体制を整えることが出来た。また、超微細加工技術を利用して金属上へヒドロゲナーゼを担持させるのに最適な直径50nm程度の多孔質形状を形成させる方法としては、当初は半導体プロセスを利用した超微細加工技術のみを利用する計画であったが、膨大な時間と費用がかかることになり、マイクロメータサイズの微細加工技術とエッチングや酸化処理を用いたボトムアップ型の自己組織形成技術を併用することにより、目的とする形状を金属表面に形成する技術を確立した。 電極基板となる金属材料として、Fe24Cr5Mo1Ni70系金属ガラス合金基板を溶融したMg融液中で保持することにより表面をナノポーラス化処理したものや、Cu基板表面に黒化処理を施してナノファイバー組織を形成させた後、その表面に高強度・高耐食性を有するNi-W合金を電析することによりナノファイバー構造を転写する新しい手法を考案した。これらの手法は、今後のいろいろな金属材料への応用に繋がるものと期待される。 さらに、生体酵素ヒドロゲナーゼを上述の転写Ni-W電析合金基板上に担持させる方法についても、種々の方法を模索し、電極基板試料上に生体酵素溶液を滴下した後、低温室で徐々に乾燥させて金属基板上に物理吸着させる方法を開発した。これにより、通常の電極での水素発生電位は、-1.5 V程度に対し、ヒドロ下ナーゼ担時電極の水素発生電位は、-0.6 V付近となり、ヒドロゲナーゼによる水素発生の計測に成功したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
Ptを含まない安価で高耐久性の水素発生電極の開発を目的として、高比表面積を有する金属電極基板の作製と、その基板上への水素発生酵素ヒドロゲナーゼの担持による更なる高水素発生機能の向上を試みた。 銅基板表面を酸化処理することにより、ナノファイバー状の表面形状が形成され、100~200倍の高比表面積化を実現できた。しかしながら、電極表面のナノファイバー構造が電気化学的に不安定であり、これを安定化させるために、ナノファイバー構造の表面に、高強度・高耐食性のNi-W合金を電着させることにより、表面構造を転写させた転写Ni-W電極を作製した。しかしながら、電気化学的に推測した転写表面の高比表面積率は10倍程度であり、転写構造のさらなる高比表面積化の工夫が必要であり、これによる高密度のヒドリゲナーゼの担時技術の開発が必要とされる。このため、電極基板表面の加工方法を変更し、アモルファス+ナノ結晶複合組織を有するNi-W合金もしくは金属ガラス合金を探索し、そのナノ結晶部分を優先的にエッチング技術等で溶解除去することによりナノポーラス表面構造を金属基板上に形成させる予定である。 Fe系金属ガラスの相分離を利用した金属表面のナノポーラス化に有望であるが、現在のところ、ナノポーラス化による材料の脆化が重要な問題となってきた。表面処理した基板材料の機械的特性評価が必要である。 半導体成形加工技術を用いた超微細加工技術に加えて、ナノインプリント技術のような簡便で大量生産に適した微細加工技術の導入と、エッチング技術や酸化処理による表面加工技術の導入が必要である。 以上のことから、(1)表面処理した金属基板の比表面積の向上によるヒドロゲナーゼ担時量の増加、(2)表面処理した金属基板の機械的特性評価、(3)簡便な超微細加工技術の開発、を今後の研究の推進方針とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度においては、ヒドロゲナーゼ担時用の金属基板の表面加工法として、Cu基板表面にナノファイバー状の酸化銅を形成させ、これにNi-W合金を転写電析することにより、ナノポーラス表面形状の電極を作製した。ヒドロゲナーゼ担時による電極特性が観察されたが、有効担時量は非常に少なく、金属基板表面の作製方法の変更にが必要と判断された。 平成27年度は、新しい金属電極の表面ナノ加工法として、Ni-W合金のW含有量を系統的に変化させ、アモルファス+ナノ結晶複合組織を有する電極基基板を試作し、このナノ結晶部分のみを優先腐食させ、ナノポーラス表面構造を形成する方針である。さらに、Zr系の金属ガラス合金にナノスケールの準結晶相を析出させ、析出相を優先腐食させる計画である。これらの電極作製法の大幅な変更により、新しい電極作製法に基づく予算執行計画を変更した。このため、平成26年度の使用額に差が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
高密度のヒドロゲナーゼ担時用の金属基板作製を目的とした基板表面加工法の変更に伴い、Ni-W電析合金の組織をアモルファス+ナノ結晶複合組織とするための合金探査が必要となった。また、生体適合性の良いZr系金属ガラスに貴金属を加えて、ナノ準結晶相を析出させるための合金探査も必要となった。このため、これら合金素材の購入が新たに必要になると共に、合金探査に必要な作業も膨大となるため、非常勤研究員を雇用して合金探査実験を推進する計画である。非常勤研究員の雇用経費は1ヶ月当たり約20万円である。次年度使用額759,859円をH27年度配分予算と合算し、合金素材の購入と非常勤研究員の約4ヶ月の雇用に必要な経費およびその他の経費として使用する計画である。
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