本研究では、大気圧下で利用可能な低温プラズマを用いた化学気相合成法(CVD)をベースとした薄膜成膜プロセスの開発を目指している。原料である有機金属前駆体(プレカーサ)が大気プラズマ中にて解離し、基材上にて薄膜組織を形成することで、さらに得られた薄膜の特性がどのように変化するかを明らかにすることを目的としている。成膜時のガス流の速度を変化させることで、活性因子の飛行速度向上や、酸素分圧などを変化させ、従来のプロセス条件と比較してより優れた材料開発を可能とするための、支配因子を抽出することを目指した。また、ガス流高速化のためのノズル形状および材質について、複雑形状と耐食性が必要となるため金属三次元プリンタによるチタン合金製ノズル作成について基礎検討を行った。 平成28年度は、次年度までの研究進捗に基づき、作動ガスとしてヘリウムだけでなくアルゴンを利用した非平衡プラズマによる成膜条件について、調査を行った。近年シェールガスなど世界的なエネルギー技術の変革に伴い、ヘリウムガスの利用が高コストとなっており、アルゴンプラズマの利用が大きな社会インパクトにつながると考えられたからである。三種類の異なるプレカーサを適用し、異なるプラズマ出力、成膜距離などのプロセス条件が、得られる皮膜の特性へ与える影響について調査を行った。本研究開発全体を通じて、世界的にほとんど報告の無い、大気中での非平衡アルゴンプラズマを利用したCVDプロセスについて基礎的な調査を行うことができた。さらにCVDにおいて、プラズマガス流高速化を組み合わせるという着想を実現するためのノズル形状についても検討を進めた。原料プレカーサごとのプロセス最適化や、プラズマ中での現象解明など、今後さらに進めていく必要があるが、非平衡大気プラズマCVDプロセスのさらになる発展について課題を明らかにすることが出来た。
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