研究課題/領域番号 |
26630374
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長坂 徹也 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30180467)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ルチル / チタン / 非平衡 / アップグレード / ピグメント |
研究実績の概要 |
本年度は、複数のイルメナイト鉱石を用い、1100℃から500℃の温度範囲で空気酸化実験を行い、750℃以下の温度であれば、鉱石の主成分であるFeTiO3からTiO2とFe2O3が生成し、熱力学的安定相であるシュードブルッカイトFe2TiO5は生成しないことを実験的に確かめた。750℃以下で酸化し、FeTiO3を全てTiO2とFe2O3にせしめた試料を700℃から400℃の温度範囲で水素ガス寄留中で反応させ、Fe2O3を全て金属鉄に還元した。その後、希塩酸を用いて金属鉄を浸出したところ、純度97%以上のTiO2を合成することに成功した。第一段階である低温酸化を行わず、イルメナイト鉱石を700℃で直接水素還元すると、金属鉄とTiO2は生成するものの、鉱石の初期主体相であるFeTiO3は未反応相として残留し、その後の酸浸出操作によっても高純度のTiO2は得られないことが分かった。 空気による酸化反応、その後の水素による還元反応の過程を、未反応核モデルを用いて詳細に検討したところ、見かけ上は未反応核の界面における化学反応と、生成物相内におけるガスの拡散が律速していると思われたものの、得られた速度パラメーターはアレニウスの関係が成立せず、複数の素過程が混在した複雑な反応機構であることが強く示唆された。初年度の結果からは、FeTiO3がTiO2とFe2O3に分解する速度に比べ、低温ではそのTiO2とFe2O3から安定相であるFe2TiO5が生成される速度が遅いために、非平衡相であるTiO2とFe2O3が見かけ上の安定相として保持されるものと推測された。 以上のように、本研究の大目的である低温でのイルメナイト鉱石からのルチル合成は初年度で成功したが、研究実施期間の最終年度である平成27年度は、その反応メカニズムを解明するための研究を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
イルメナイトの低温空気酸化による非平衡相から水素還元と酸浸出を用いて鉄を除去することにより、従来のチタンスラグ法などより遥かに少ない投入エネルギーで、より高い純度のルチルTiO2を合成することに成功しており、本研究は当初計画以上の達成度が得られたと考えている。現在本法はチタンメーカー他と特許出願を準備中である。 2年目は、なぜそのような非平衡状態が現れるのか、詳細な反応メカニズムを解明する計画である。本法を知財化、実用化するにあたり、学術的な裏付けは本法の汎用性を確保する上でも重要である。
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今後の研究の推進方策 |
イルメナイト鉱石の低温酸化、低温還元によって生成する各相の詳細なキャラクタリぜーションと速度解析を行い、何故イルメナイト鉱石を低温酸化すると熱力学的平衡相であるシュードブルッカイトFe2TiO5が生成せず、TiO2とFe2O3が見かけ上の安定相として保持されるのか、そのメカニズムを解明する。これと並行して、複数の汎用イルメナイト鉱石を対象に、低温酸化・還元・酸浸出法による高純度ルチルのグリーン製造法を適用し、一般性を担保する。また、非平衡相として抽出されたルチルの光触媒能について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に実験用試薬を購入する予定であったが、これまでに購入していた試薬で間に合ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
実験に必要な器具及び試薬、打ち合わせの旅費に使用する。
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備考 |
ルチルの合成法として企業と共同出願(PCT出願)準備中であるため、論文投稿、学会発表は行っていないが、出願完了後は速やかに論文投稿、学会発表(国際会議発表)を行う予定である。
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