高温作動型酸化物プロトン伝導体を用いた水素(プロトン)および重水素(デューテロン)の同位体分離に関する研究を行った。具体的には(1)プロトンとデューテロンは質量の違いが倍あり、プロトン伝導性固体電解質内で動きは理論的には約1.4倍程度異なる。また、(2)一般には化学的特性はほぼ等しいとして取り扱われるが、厳密には多少異なることが予想されるため、その電極反応特性にも僅かながら違いが生じると考えられる。上記2つの特性の違いを利用した、水素同位体分離手法の検討を行った結果、以下の結論を得た。 (1)水素と重水素を含む雰囲気ガスに所定の一定電圧を印可し、定常的に透過してくる水素と重水素の量を測定したところ、約1.4倍の透過量の差が観察され、理論的な差と一致した。一方、印可電圧を所定の波形にて動的に変化させたところ、透過する水素と重水素の比が1.4倍とは異なった。また、印可の仕方によりその差に変化があることが判った。 (2)プロトン伝導体・白金多孔質電極の半電池に対するプロトンとデューテロンの電極反応の違いを明確にするためにサイクリックボルタメトリー法をもちいて測定を行ったところ、得られた電圧―電流特性に対し、得られた電流値が1.4倍とは異なる値となったが、波形的には大きな違いは得られなかった。 以上の結果より、当初期待していたようにプロトン導電体を透過してきたガス中への重水素の濃縮は難しいが、印可電圧およびその印可手法の工夫により水素を透過させることで原料ガス側での重水素の濃縮の可能性があることが判った。よって、印可電圧およびその印可手法や電極材料の工夫により、より効率的な重水素の濃縮法の確立が可能であることが明らかとなった。
|