研究課題/領域番号 |
26630381
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇田 哲也 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80312651)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水素製造 |
研究実績の概要 |
非鉄金属精錬の主要な副産物である二酸化硫黄ガス(S02)の還元力はこれまで有効に利用されていない。本研究では、これを有効活用することによって、水を原料としながらも、従来の半分の電力で水素を電気分解によって製造する方法を着想した。
まず、最初の試みとして、亜硫酸イオンを酸化するアノード反応によって、分解電圧の低下を確認する実験を行った。水溶液中にNa2SO3が含まれない場合、100 mA /cm2の電流が流れる電位を還元反応または酸化反応の開始電位とすると、Ag/AgCl参照電極に対して、H2発生電位は- 0.2 V、O2発生電位は1.4 Vであった。したがって、H2Oの理論分解電圧1.2 Vに対して、DSE電極上での水の電気分解には最低でも1.6 V程度の電圧が必要であると考えられる。水溶液中にNa2SO3が含まれる場合、酸化反応の開始電位は+ 0.9 Vに低下した。したがって、酸素発生の場合に比べて約0.5 Vセル電圧を低減できると予想できる。しかし、これはSO32-/SO42-の標準酸化還元電位+ 0.15 Vと比較して0.75 V程度貴な値をとることから、SO32-のアノードにおける酸化反応の過電圧が大きいと考えられることが判明した。また、このとき対極(カソード) 上では白色の析出物が観察され、SO32-の還元によるSの生成反応が進行したものと考えられる。プロトン交換膜を隔膜に用いた2室型の電解も実験したが、クロスオーバーによりSO32-が水素イオン選択透過膜を透過し、カソード側の電解槽でSが生じた。
よって次年度以降、過電圧の低減とSの生成の抑制を最重点に取り組まなければいけないことが明瞭となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一室型、二室型の電解槽で順調に実験を開始した。電極反応速度の検討は、100mA/cm2で行った。これは、銅製錬における銅の電解精製(同じく2電子反応)における電流密度の3倍である。さらなる電流密度の向上の余地もあり、産業的には、銅製錬におけるS02排出速度に見合った速度で亜硫酸イオンの酸化反応を進行させることができると期待できる。今後は、より電力量の低減のために過電圧の抑制の研究を重点的に行う。また、本年度の検討による、概要に記したような本アイデアに関する課題も明瞭となった。
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今後の研究の推進方策 |
国内においては電力供給が逼迫しているが、一方で、より安価な電力の供給のためには電力需要の平準化が求められている。さらには、太陽光などの自然エネルギーによる発電量も大幅に増加しており、電力供給過多となったときの電力貯蔵の問題が現実味を帯びてきている。よって、高効率な電力貯蔵法を早急に検討しなければならず、水素を利用したスマートグリッドの構築が有力案として考えられる。このような状況の中で、非鉄金属精錬の主要な副産物である二酸化硫黄ガス(S02)の還元力はこれまで有効に利用されていない。本研究では、これを有効活用し、水を原料としながらも、従来の半分の電力で水素を電気分解によって製造する方法のラボレベルでの達成を目指す。本年度の結果を受けて、今後は、亜硫酸の酸化反応の過電圧の低減とカソードにおける単体Sの生成の抑制を最重点に取り組む。
過電圧の低減のためには、電極材料の探索などに取り組んでいく。現在は、イリジウム酸化物をアノードに用いているが、イリジウムは高価であるため、その観点でもイリジウム酸化物に代わる電極を見いだす必要がある。電極材料の検討では、ポテンショスタット等を用いて、交換電流密度の測定を行い、定量的な評価を行っていく。単体Sの生成の抑制には、二室型の電解槽を用いた実験で各種プロトン交換膜を用いたクロスオーバーの低減などが考えられるが、隔膜にとらわれず、種々のアイデアに取り組んでいく。上記の課題に加えて、SO2の水への吸収速度の実験的検討や、非鉄製錬の副産物のSO2だけでなく、石油産業で排出されるSを還元剤として利用する案にも取り組む予定である。H27年の研究体制は、材料工学専攻の修士課程の学生1名と、連携研究員である畑田助教とともに取り組む予定である。
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