研究課題/領域番号 |
26630384
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
青木 秀之 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40241533)
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研究分担者 |
齋藤 泰洋 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50621033)
松下 洋介 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80431534)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 多環芳香族炭化水素 / MAC機構 / 量子化学計算 / 密度汎関数法 |
研究実績の概要 |
メチル基が付加することで多環芳香族炭化水素(PAHs)が成長するMetyl Addition/Cyclization (MAC)機構の反応を明らかにするために,本年度は,(1)MAC機構が支配的となる条件の把握,(2)素反応の反応速度定数の算出を行った.(1)MAC機構が支配的となる条件を把握するために,種々の滞在時間(20-400 ms),反応温度(1070-1730 K)で,プロパン・エチレンを熱分解させ,ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)により生成した化学種の同定・定量を行った.この結果,プロパンを1073 Kで熱分解させた場合にMAC機構の中間生成物が多く確認された.しかしながら,MAC機構のみでPAHsの成長が進行している条件はなく,いずれの条件においても Hydrogen-Abstraction/Carbon-Addition (HACA: アセチレンによってPAHが成長する反応)機構などのMAC機構以外の中間生成物が確認された.本実験を踏まえると,実験的な検討のみでMACの反応速度を算出することは不適当であるから,(2)素反応の反応速度の算出のために量子化学計算を用いて,個々の素反応に対する反応速度を算出することとした.商用ソフトGaussianを用いて量子化学計算を行い,フェナントレンのarmchairサイトに対するMAC機構に関する212本の素反応について反応速度定数(頻度因子・活性化エネルギー)を算出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,動的モンテカルロ(KMC)シミュレーションを用いて速度モデルを構築する新規手法の提案を目指す.特に多環芳香族炭化水素の成長反応について,methyl addition/cyclization (MAC)機構などの反応経路を考慮できる速度モデルを構築し,その有効性を示す.そこで本研究では,実験により数種類の反応の反応速度定数を算出し,この反応速度定数にもとにKMCシミュレーションを行うことで主要な反応経路および化学種を把握し,速度モデルを構築することを目指す.そのために,初年度としてMAC機構が支配的な条件の把握および反応速度定数の決定を目標に研究を進めた.計画段階では,実験において重要な反応のみを抽出し反応速度定数を求めることを想定していた.しかしながら,実験の結果,MAC機構のみならず,Hydrogen-Abstraction/Carbon-Addition (HACA)機構の反応をも並発・協奏的に進行しており,実験的なフィッティングのみで,素反応の反応速度定数を決定することが不適切であることが分かった.そこで,反応速度定数の算出については,『重要な反応の反応速度のみを実験的に算出する』のではなく,『考えうるすべての素反応の反応速度を量子化学計算により網羅的に算出する』こととし,反応速度定数を決定した.研究の遂行する中で,実験的検討のみでは不十分であることが確認されたが,それを数値解析により補うことで,本年度の目標である反応速度定数の算出を達成することができた.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,実験により本年度で算出した(1)反応速度定数の妥当性を確認する.また,この反応速度定数を用いて(2)動的モンテカルロ(KMC)シミュレーションを実施する.また,KMCシミュレーションの結果から,(3)3-4環の多環芳香族炭化水素に対するMetyl Addition/Cyclization (MAC)機構の詳細化学反応機構を構築する. 本年度の研究により,212本の素反応の反応速度定数を網羅的に決定することができた.この反応速度定数については数値解析的に算出したものであり,実験的にその妥当性を確認する必要があると考える.そこでフェナントレンとメタンの混合物を原料とした熱分解実験を実施し,反応速度定数を比較することで,妥当性の検証を行う.さらに,この反応速度定数を用いて,KMCシミュレーションを実施する.そのために,まず,MAC機構の反応の予測および感度解析による重要な反応を抽出ができるKMC法のコードを開発する.開発したコードを用いて重要な反応を抽出した後,既往の詳細化学反応機構に組み込み,3-4環の多環芳香族炭化水素(PAHs)に対するMAC機構の反応を考慮可能な速度モデルを構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,実験のみで反応速度定数を算出することを計画していたが,研究を遂行する中で,実験のみで反応速度定数を算出することが不適切であることが判明した.そこで,量子化学計算によって反応速度定数を算出することとし,本年度は数値解析用ワークステーションの購入に予算を充て,次年度において実験的な検討をすることとしたためである.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,主に以下の3点のために予算を使用する.①フェナントレンとメタンの混合物の熱分解により反応速度定数の算出を行うため,原料を購入する(予算の5割程度).②動的モンテカルロシミュレーションのためにワークステーションを購入する(予算の3割程度).③本年度および来年度で出した結果の成果を報告(予算の2割程度)する.
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