本研究では,高分子ナノコンポジット薄膜材料の設計・制御,特にナノ粒子の薄膜内空間構造の設計・制御指針の確立に資するため,超臨界水熱法により合成した有機分子表面修飾無機ナノ粒子を内包する固体基板上の高分子薄膜を対象として,ナノ粒子の薄膜内空間構造に及ぼす諸因子の影響を検討する。本年度は以下の結論を得た。 (1) ポリスチレン(PS)に対するCeO2ナノ粒子の濃度が10 wt%の場合に関し,表面修飾有機分子をデカン酸あるいはオレイン酸とし,トルエンあるいはシクロヘキサンを溶媒としてSi基板上に製膜(スピンキャスト)した直後の薄膜表面のナノ粒子の構造を走査型プローブ顕微鏡(SPM)で観察した。いずれの条件の場合も,ナノ粒子は薄膜表面に島状の凝集体を形成し,その平均凝集体径はオレイン酸に比較しデカン酸の方が,またシクロヘキサンに比較しトルエンの方が大きかった。この理由を修飾有機分子と溶媒との親和性の違いによるものと考え,平均凝集体径をχパラメータにより整理した。 (2) オレイン酸修飾ナノ粒子/PSコンポジット薄膜断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により,加熱に伴う薄膜内のナノ粒子の移動過程,すなわち加熱初期にナノ粒子は薄膜表面に存在するが,その後薄膜中を表面から基板側にゆっくりと移動し,最終的に薄膜の途中で停止する過程を詳細に検討した。 (3) ナノ粒子濃度が高いほど,加熱前の薄膜表面のナノ粒子の被覆率は高いが,加熱による薄膜中のナノ粒子の移動距離は,濃度に依らずほぼ同じであることが分かった。また,ナノ粒子表面の有機修飾鎖の種類に依らず,ナノ粒子は加熱により薄膜中を移動した。 (4) SPMによる薄膜表面の観察からも,加熱によりナノ粒子が薄膜中に取り込まれる,すなわち薄膜表面から基板側に移動することを確認できた。
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