本研究の目標は、高周波超音波で液中につくった格子状空間を利用して、結晶粒子の生成と成長を精密に制御する技術を確立することである。H27年度は、高周波超音波による格子状空間を安定して生成させる条件を検討した。具体的には、超音波周波数と溶液を満たすセル形状を系統的に変化させてグリシンの結晶化実験を行った。超音波周波数として5.0 MHzを選択した。一方、5.0 MHzでは、溶液セルの形状と試料への貧溶媒をゆっくりと添加することで、粒子を格子状空間に安定して留め、投入電力が大きいほど、粒子の捕捉が容易であることがわかった。柱状のグリシン粒子は格子状空間中で捕捉されると、長軸が水平方向に配列してその場で振動しながら成長した。粒子は、縦横0.32 mm間隔で整然と配列しており、超音波照射を停止すると、補足されていた粒子が一度に沈降を開始する様子が観察された。粒子間距離の0.32 mmは液中を5.0 MHzの超音波が伝播する際の1波長と同じであった。 一方粒子径分布について、定在波による格子状空間で配列させた場合、音響流による混合のもとで生成された粒子径分布に比較すると、径が大きくかつ分布幅が広い結果となった。この原因には3つの仮説を立てた。第1に溶液の混合下で形成された渦の方が、定在波による格子状空間よりも小さく、より揃っていたこと、第2に定在波を形成させるために、貧溶媒の添加をゆっくりと行ったことによる、核形成時の過飽和度が2つの流動状態で異なっていたこと、第3に、格子状空間で捕捉された結晶粒子は、全体の結晶に比較して1部分であったことである。現時点では仮説の検証に至っていない。 研究目標に対して、結晶径の精密制御の目的達成は半ばであったが、液中への5.0 MHzの高周波超音波を照射して格子状空間をつくり、粒子を1波長ごとに配列させることができた。
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