研究実績の概要 |
近年,柔軟性多孔性結晶(Soft Porous Crystals; SPC)と呼ばれる多孔性材料が,注目を集めている。SPCは,金属イオンと有機配位子が自己集合的に組み上がった多孔性の有機金属錯体(MOF)の1種であり,その構造の柔軟性ゆえに無孔構造から多孔構造へとステップ状に構造転移することが特徴である。SPC特有の「ゲート吸着」と呼ばれる,圧力の閾値における急激なガス吸着現象は,この構造転移に起因するもので,ガス吸着だけでなく分子メモリやセンサーなどへの応用が期待されている。本研究では,SPCが示すゲート吸着挙動を,粒子径および粒子形状という物理的因子により制御し,所望の条件での構造転移を示す材料設計指針の確立を目指す。本年度は,積層型多孔性配位錯体の一つであるELM-12を対象にマイクロリアクタを用いて様々な大きさの単分散粒子合成を試み,粒子サイズが吸着特性に与える影響を検討した。その結果,1ミリ秒以内という迅速な混合によって単分散な粒子合成が可能であり,反応温度と原料濃度によって粒子サイズが変化することを示した。ELM-12は構造転移に起因するステップ状の吸着挙動を示すが,その転移圧は100 μm粒子で相対圧0.1,2 μm粒子で0.001と粒子サイズに多大に依存し,その中間の粒子サイズでは両方の圧力で二段階の構造転移を示すことを見出した。脱ゲスト構造が粒子サイズによって異なることから,昨年度のシミュレーション検討結果を基にすれば,脱ゲスト状態の構造安定性の違いが構造転移圧に変化をもたらしたと考えられる。
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