研究課題/領域番号 |
26630395
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
川原村 敏幸 高知工科大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (00512021)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 液滴の挙動 |
研究実績の概要 |
申請者が開発してきた大気圧機能薄膜作製手法「ミストCVD」は、非常に均一に高品質な薄膜の作製出来る。これは原料として供給される液滴がライデンフロスト状態になっている為である。ライデンフロスト効果とは、液滴が沸点以上に加熱された表面に近づいた時、液滴周りが蒸気膜に覆われ表面から離れ表面が濡れないという現象である。加熱板上で水滴が動き回る現象がこれである。つまり、液滴がライデンフロスト状態になることで、液滴が直接基板上に付着することなく気相で薄膜成長反応が進行する為、非常に均一で高品質な薄膜を作製出来る。本申請は、液滴のその特殊な状態を利用して立体物への機能薄膜を作製する技術の開発を行う為、ライデンフロスト状態の微小液滴の挙動の観測及び解析が目的である。 微小液滴のライデンフロスト状態を観測するにあたり、実験系の構築で①装置構造と②撮影の仕方と③解析の仕方に工夫を凝らす必要がある。本年度は、①と②を実行した。 装置構造は、ライデンフロスト現象を積極的に起こす事が可能なファインチャネル(FC)機構(ミストCVDの装置構造)を利用した。液滴を観測する為、流路の奥行き幅を1 mmとし壁を石英とした。また装置が加熱されるため、対物レンズ(×50)を装置から可能な限り離す必要があり、焦点距離の長い(13.8mm)レンズを活用した。 また本実験で液滴(大きさ:数μm程度、速度:数m/s程度)の形状を観測するためには、数十ナノ秒での撮影が必要となる。そこで、数十ナノ秒の発光が可能なショートパルス発光源を用意する必要があった。ところが申請額の減額により、当初計画していた発光源の購入を断念せざるを得ず、本学所有のパルスレーザを利用することとした。 現在本申請から公表できる成果はまだない。一方、ライデンフロスト状態を利用しているミストCVDに関する成果として、論文1報、特許3件、発表8件を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請で執行する研究は、大まかに実験系の構築と挙動観測・解析に分けられる。 実験系の構築に関しては概ね順調に進呈している。微小液滴(大きさ:数μ程度、速度:数m/s程度)の撮影において、カメラの固定方法や装置の加工精度は非常に重要であり、それらの改善を行う必要がある。 一方、挙動観測・解析に関しては予定よりも数ヶ月遅れている。本申請では、ライデンフロスト状態の微小液滴の挙動を観測・解析するための装置、及び、ショートパルス発光源が重要である。申請当時、これらのことを考慮し予算額を厳密に計算して支出していたが、減額されたため、これらのうちのどちらかをあきらめざるを得なかった。そこで、ショートパルス発光源をあきらめ、本学所有のパルスレーザを利用する事とした。しかし、光量が足りず現時点でははっきりとした画像を得ることが出来ていない。
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今後の研究の推進方策 |
まず、微小液滴(大きさ:数μ程度、速度:数m/s程度)の撮影において問題が生じた、カメラの固定方法や装置の加工精度等、実験系の構成の改善を進める。光源光量に関する問題は引き続き対策を検討する。 光源光量に関する問題の解決と並行して、液滴の挙動の観測を進める。最初、純溶媒(水, メタノール等)を用い、B. Gottfried等により次元解析から算出されたライデンフロスト効果が現れたときの数mm径の純溶媒液滴の蒸発時間に関する厳密式が、数μm径の液滴にも当てはまるのかを検討する。また、純溶媒(水, メタノール等)を用いた液滴の挙動の観測を行い、B. Gottfriedらにより算出されたライデンフロスト効果が現れたときの数mm径の純溶媒液滴の蒸発時間に関する厳密式が、数μm径の液滴にも当てはまるのかに関して検討を続ける。 一方、この厳密式は、熱伝導度(k)、温度(ΔT)、密度(ρl, ρv)、気化熱(ΔH)、粘度(μ)、熱容量(Cp)、拡散係数(D)、半径(r0)、重力(g)に関する次元解析から算出されており、液滴が混合溶媒や溶液の場合の挙動を表す式ではない。そこで、混合溶媒や溶液を用いた場合の液滴の挙動について観測を行い、B. Gottfried等により算出された厳密式との比較を行う。またこれらのデータを元に、最終的には次元解析により、混合溶媒や溶液を用いた場合の、ライデンフロスト効果が現れた液滴の蒸発時間に関する厳密式の算出を試みる。 また、ライデンフロスト効果が濡れ性に影響されるという報告もあることから、加熱壁面の基材をアルミや石英等と変更した時の液滴の挙動などについても観測し、厳密式と比較を行う。 これらのデータを元に、立体物への機能薄膜作成技術を考案・開発する。また、様々な応用展開を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当初比較的厳密に計算して算出した予算予定額を、申請決定時に減額(申請した光源の価格+10万円)されたことにより、研究の方向性を修正せざるを得なかった。新たに考えた研究計画に従い研究を進め、概ね予定通り執行することが出来た。数千円の残額が生じたのは、本年度の研究に必要な物品・旅費などの端数である。
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次年度使用額の使用計画 |
数千円分の繰り越しは、次年度購入する物品・旅費などに割り当てる。
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