本研究の目的は「1分子制御化学」の実現に向けて、超微量液体操作に適したナノ流体デバイスを用いて、1分子の輸送・混合・反応ができるようにするための1分子液滴反応場の創成である。ここで申請者が提案する「1分子制御化学」は、分子をビルディングブロックとして直接取り扱い、1分子単位で自由自在に輸送・混合・反応・分離する技術に基づく新たな化学である。この技術が実現すれば、多分子系を取り扱う従来の化学(または化学工学)の常識を覆す可能性もあり、本研究がこの究極のボトムアップ方法論に基づく新たな化学または分子科学の道を開く契機になることが期待される。 本年度は、1分子液滴反応場の実現に取り組んだ。具体的には、十字ナノ流路を有するナノ流体チップを用いて、横方向のナノ流路につながる液体導入用マイクロ流路に超純水を毛細管力で導入し疎水性SAM界面(バルブ)で止める条件を検討した。さらに圧力コントローラーを用いて縦方向の空気導入用マイクロ流路から空気を導入し、流路内の液体を切り取り、アトリットル液滴(=1分子液滴反応場)の生成に挑戦した。結果について、最適化した実験条件を用いた場合、ナノ流路の付近にある疎水性SAM界面でナノ流体を止めることに成功した。同様の実験を数回行ったが、毎回同じ場所の疎水性SAM界面でナノ流体止まるという結果が得られた。これらの結果よりバルブとしての再現性が高いことが確認できた。また、流路内の液体切り取り実験を行ったが、縦方向のナノ流路にうまく空気が導入できなかった。流路内に何らかのつまりが生じていると考えられる。今後はその問題を解決し、切れ取り圧力の検討、液滴の作製、操作に取り組むことが必要である。
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