光触媒は(1)結晶内部で吸収した光エネルギーを(2)励起キャリア(電子と正孔)に変えて表面へ伝達し(3)活性中心による物質変換に利用する人工物である(右図)。光吸収・伝達・物質変換を担う構造要素を無作為に寄せ集めても有為な物質変換はおこらない。粒径1 μm程度の無機微粒子に含まれる構造要素が協調的にはたらくことで、定常的な物質変換サイクルが動作する。協調的な動作メカニズムの解明は、人工光合成の実用化へむけた光触媒開発を支える知的基盤となる。 本研究の目的は、NaTaO3光触媒に紫外光を照射して電子と正孔を励起して、電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを時間分解能50 nsで計測し、光触媒材料における電子励起状態の空間構造を実験的に解析する方法論を提案することである。 最終年度である平成27年度は、ストロンチウムをドーピングしたNaTaO3光触媒にYAGレーザーパルス(波長266 nm)を照射してESRスペクトルを時間分解計測した。電子-正孔対に由来する線幅2 mTのマイクロ波吸収をg = 1.995に確認できた。 測定したスペクトルを解析するために、金属酸化物光触媒の密度汎関数法シミュレーションのエキスパートであるCristiana Di Valentin准教授(ミラノビコッカ大学)との共同研究をおこなった。SrNa15Ta16O48クラスターを対象とする計算を実施し、スピンが複数のTaイオンに非局在化する結果を得た。 さらにSrドープNaTaO3単結晶膜の反射IR測定をCristof Woell教授およびYuemin Wang博士(カールスルーエ工科大学)との共同研究としてスタートさせた。スペクトルの偏光依存性をもとに電子(正孔)を捕獲した準位の空間構造を考察するように研究期間満了後も発展させる。
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