研究課題
可溶性メタンモノオキシゲナーゼ(sMMO)の酸素活性化において、パーオキソ二核鉄(III)中間体Pからオキソ二核鉄(IV) high spin (S = 2)酸化活性種Qが生じる。活性種Qは、メタンをメタノールに一原子酸素化する中間体であり、その構造や反応性に興味が持たれている。我々は、1,2-bis[2-{bis(2-pyridylmethyl)aminomethyl}-6-pyridyl]ethane (6-hpa)を用いて二核鉄(III)錯体[Fe2(μ-O)(OH2)2(6-hpa)](ClO4)4 (1) を合成した。1とH2O2との反応で生じる中間体の分光学的測定から、酸化活性種としてμ-オキソジオキソ二核鉄(IV) high spin (S = 2)錯体(3)が生成することを明らかにした。また1が触媒するH2O2によるアルカンの酸化反応を調べ、3によるアルカンのC-H結合切断能を速度論的に解析した。本年度の研究において3がアルカンの酸化に対して高い活性を示すためには、syn-oxo構造からanti-oxo構造への構造変化が重要であることを明らかにした。6-hpa配位子の二核鉄錯体を用いたC-H結合活性化機構において、syn-anti構造変化によるhigh-spin (S = 2) オキソ二核鉄(IV)錯体の活性化は不可欠な反応過程である。またhigh-spin (S = 2)オキソ二核鉄(IV)錯体は、これまで報告されている二核鉄錯体の500倍程度と非常に高いC-H結合活性化能を有することを明らかにした。酸化活性種3はsMMOと同様の非常に大きなKIE値を示し、-30°Cにおいてトルエンでは90、エチルベンゼンでは37であった。この結果より、我々のhigh-spin (S = 2) オキソ二核鉄(IV)錯体 [Fe2(μ-O)(O)2(6-hpa)](ClO4)2 (3) はsMMOの中間体Qにおけるhigh-spinの電子状態とその高い反応性をよく再現するモデル錯体であるといえる。本研究は、sMMOの酸素活性化機構を理解するうえで、また新たなアルカンの酸化触媒を開発するための新たな手掛かりを与えるものとして重要である。
2: おおむね順調に進展している
本研究の研究目的は、高性能酸化触媒を開発し、安価な酸化剤を用いて、効率的な酸化反応を行う事である。特に、アルカン類の酸化反応は一般的に優れた酸化触媒の開発が困難である。我々は、可溶性メタンモノオキシゲナーゼに注目して、これと類似の高い反応活性を示す酸化触媒の開発を目指した。可溶性メタンモノオキシゲナーゼは、酸素分子を酸化剤としてメタンをメタノールに酸化する事が出来、非常に高い酸化活性を示す。しかし、何故この様に高い酸化活性を示すかについては、理由は明らかにされていない。その最も大きな原因は、可溶性メタンモノオキシゲナーゼの酸化活性種である活性種Qと類似の性質を示す錯体の開発が遅れている為である。そこで、我々は、この活性種Qの特徴であるhigh-spin diiorn(IV)の電子状態を再現する事の出来る二核鉄錯体を開発し、その酸化活性を明らかにする事を目的とした。昨年度までの研究で、非常に高い活性を示すに核鉄錯体の開発に成功した。速度論的研究や分光学的研究からその反応性を明らかにする事に成功した。また、本錯体はシクロヘキサンやアダマンタンなどの過酸化水素による酸化反応を効率的に触媒する事が明らかになった。これらの成果は、本申請の最も重要な高性能酸化触媒の開発を大きく推進させた。これらの結果は、現在論文を作成中であり、完成次第投稿する。
現在までの達成度に示したように、現在までに高性能酸化触媒の開発に成功した。この錯体触媒の特徴は、二核構造を安定化する二核化配位子を有する事であり、これにより、慎の酸化活性種を大きく安定化する事に成功した。この酸化活性種の構造は、2つのO=Fe(IV)が酸素原子により架橋され、互いにアンチ型に配向している事が明らかになった。これらの知見に基づいて、分子内に2つのO=Fe(IV)をもち、これらが互いにアンチ配向する様な錯体の生成を可能にするシステムの開発が今後の研究課題となる。この最も可能性の高い研究として、我々は、本年度に報告したカルボン酸含有二核化配位子による二核鉄錯体の開発がある。この二核鉄錯体は、過酸化水素との反応においてパーオキソ二核鉄(III)錯体を生成するとともに、このパーオキソ錯体はO-O結合の開裂により、hig-spin oxodiiron(IV)屁と変換される事を明らかにした。しかし、カルボン酸含有二核化配位子の錯体では、シン配向が構造的に安定であり、酸化活性の点で問題があった。これを解決する為には、積極的にアンチ配向の活性種を生じさせるシルテムの開発が必要になる。我々は、一原子酸素添加試との反応によりこれを実現する事を目指す。一原子酸素添加試薬としてオキソンの使用を試みる。今後は、安価な酸化剤出るオキソンを用いた高性能酸化システムの開発を目指す。
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Chemical Science
巻: 5 ページ: 2282-2292
10.1039/C3SC51541A