研究課題/領域番号 |
26630414
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小寺 政人 同志社大学, 理工学部, 教授 (00183806)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 安価な酸化剤 / 過酸化水素 / 二核鉄錯体 / シクロヘキサン / アダマンタン / 3級/2級の選択性 |
研究実績の概要 |
本研究では、安価な酸化剤を用いて、炭化水素を含む様々な基質を効率的に酸化する触媒の開発を目的としている。我々は、6-hpa二核化配位子を用いて二核鉄錯体を合成した。この錯体は過酸化水素を酸化剤として、アルカン、アルケンを効率的に一原子酸素化する反応を触媒する事を見いだした。本年度の研究では、この錯体によるアルカン類の酸化反応を行った。基質として、シクロヘキサンを用いた時は、これをシクロヘキサノールとシクロヘキサノンに酸化した。この時の酸化剤あたりの収率はほぼ定量的であった。また、このときの触媒回転数は104回であり、触媒の高い耐久性を示すものである。さらに、アダマンタンを基質としたときには3級位の酸化が選択的に進行し、3級/2級の選択性は27であり。これまでに報告された選択性の最高値30に近い値であった。さらにこの時の触媒回転数はおよそ200であり、高い触媒回転数を示した。これは、6-hpaの二核鉄錯体が過酸化水素と反応してパーオキソ中間体を経てトリオキソに核鉄(IV)錯体を酸化活性種として生成する為である。この酸化活性種は、高スピンFe(IV)=Oの電子状態を持つ二核鉄錯体として、世界で初めての例である。この電子状態がその高い酸化活性の原因である。さらに、この錯体のFe(IV)=Oの周辺の立体障害は、反応性を決定する重要な要素である事が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究で、二核鉄錯体が触媒するアルカン酸化における酸化活性種がトリオキソ二核鉄(IV)錯体である事が明らかになった。この錯体の高スピン鉄(IV)状態がその高い反応性に重要な働きを示す事を見いだした。さらにこの錯体の酸化活性種であるFe(IV)=Oのオキソ酸素周辺の立体障害を細小にする事が重要である事を見いだした。これは、トリオキソ二核鉄(IV)錯体と様々な炭化水素との反応の反応速度測定によって明らかになった。即ち、基質低濃度領域では、反応速度は基質濃度に対して1次に比例し、基質高濃度領域では基質の種類に関係なく一定の値に収束した。この現象は、基質低濃度領域では酸化活性種と基質との反応が律速段階であるが、基質濃度の上昇に伴って、律速段階が基質との反応から、酸化活性種の構造変化にシフトする事を示している。これは、反応速度の温度変化によるアイリングプロットからも明らかになった。即ち、基質低濃度側では活性化エントロピーは府に大きな値となったが、基質高濃度領域では、活性化エントロピーの値は大きく正側にシフトした。これは即ち、基質低濃度領域で、基質と酸化活性種の2分子反応が律速段階であったものが、基質濃度の上昇に伴って酸化活性種の構造変化という1次反応に変化した為に、2分子反応から1分子反応へと変化した為である。現在、二核鉄錯体が高い酸化触媒性能を示す理由として、当スピンFe(IV)=Oの存在とオキソ酸周辺の律対ショウガが重要であると明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度の研究を受けて、本年度はさらに立体障害を軽減した二核鉄錯体を用いて、さらに高活性な酸化触媒系の開発を試みる。この為には、カルボン酸含有二核化配位子であるBPG2Eを用いる。この配位子は6-hpaの2つのピリジル基を2つのカルボキシ基に変換した配位子である、よく知られている様に、可溶性メタンモノオキシゲナーゼの活性中心に存在する二核鉄には、多くのカルボキシ基が配位している。これは、メタンの酸化反応に重要な働きを持つと考えられれるが、その理由は明らかにされていない。我々は、このcarboxylate-richはいい環境を模倣する配位子としてBPG2E二核化配位子を用いる。カルボキシ基はピリジル基と比べてはるかに立体的に小さなドナーである。従って、この配位子を用いてトリオキソ二核鉄(IV)錯体を生成させれば、そのFe(IV)=Oのオキソ酸素周辺の立体障害は6-hpa配位子を用いた時よりもはるかに小さなものとなると予測される。さらに、6-hpa二核鉄錯体の研究から明らかになったアンチ配向を持つ酸化活性種が高い反応性を示す事を考慮して、BPG2E配位子を用いたトリオキソ二核鉄(IV)錯体にアンチ配向を取らせる事を試みる。この為には、過酸化水素を用いずに酸素原子移動試薬を用いて直接的にトリオキソ二核鉄(IV)錯体を生成させる事が必要である。2016年度の研究では、酸素原子添加試薬としてオキソンを用いて様々な基質の酸化を行う。
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