血管中を循環するガン細胞(CTC)は、患者の体内の腫瘍の特性を保持しているため、CTCの回収により、予後や治療効果の予測が可能となる。これまで、CTCの回収には、特定の抗体を用いた手法などが報告されているが、ガン細胞は多様な表現型に容易に変異するため、特定の解析方法だけではCTCの探索には不十分である。そこで本研究では、多角的かつ詳細な顕微鏡観察によってCTCを検出した後に、光応答性の細胞固定化剤であるPEG脂質誘導体を用いて、迅速簡便にCTCを単離可能な技術の開発を目的とした。 前年度の研究において、光分解性PEG脂質の共重合体により、固定化された細胞がより光遊離しやすい表面を構築した。しかし、依然として、細胞の非特異的な基板への固定化力が存在し、細胞の選択にはポンプを用いて制御されたせん断応力の負荷が必要であった。今年度は、簡便かつ確実な細胞選択技術の構築を目指し、非特異的な細胞の基板への固定化力がゼロとなる細胞選択表面を作製し、CTCの単離を行うことを目的とした。 そこで、光照射によって細胞が固定化されるようになる新規光活性化PEG脂質を開発した。本分子を修飾した表面を用いることによって、目的の細胞のみを基板に光固定化・選別できる。この時、目的外の細胞は全く基板へ非特異吸着を起こさず、ポンプを用いない穏やかな洗浄操作によって簡便に除去できた。 最後に、流路チップ中での血中循環ガン細胞(CTC)の単離を行った。まず、坦ガンマウスから採取した末梢血中のCTCを抗体により蛍光標識した。これを光活性化PEG脂質表面に播種し、蛍光により検出したCTCを光固定し、流路を穏やかに洗浄したところ、数万個以上におよぶ目的外の細胞はすべて基板上から除去され、数細胞のCTCのみが基板上に固定された。以上のように、本研究では新規の機能性分子を開発し、顕微鏡観察後にCTCを単離可能な技術を確立した。
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