本研究は、研究代表者らが高付着性細菌Acinetobacter sp. Tol 5細胞上に発見した、付着性バクテリオナノファイバー(AtaA)の遺伝子をリポソーム内部で合成し、AtaA被毛リポソームを創製することである。しかし、AtaAは3630アミノ酸から成る巨大なタンパク質であるため、発現やフォールディングに困難が伴うと予想された。そこで我々は、AtaAの基本構造を損なわずに正しくフォールディングされる縮小版ataAの遺伝子を作成し、無細胞タンパク質合成系(ピュアシステム)でのポリペプチド鎖の合成を確認した。次に、縮小ataA遺伝子を、遠心沈降法により調製した細胞サイズのジャイアント・シングルラメラ・リポソーム内部で発現させ、縮小版AtaAタンパク質の合成とリポソーム表層提示を試みた。共焦点レーザー顕微鏡とフローサイトメトリ-により、抗体蛍光標識した縮小版AtaAが表層提示されている事を確認した。しかし、表層提示量はわずかであった。また、ファイバーの形成を確認することはできなかった。ファイバーが形成されるには、リポソーム表層でAtaAファイバーが正しくフォールディングされる必要がある。しかし、複雑なホモ三量体を形成するAtaAおよびAtaAが属するタンパク質ファミリーであるTAAのフォールディング機構に関する知見は皆無であり、効果的な解決手段を見出すことはできなかった。とは言え、AtaAのようなファイバータンパク質をリポソーム表層へ提示する事は世界初の成果である。また、ピュアシステムにおいては、予想外にも、AtaAの一部が三量体を形成していることが明らかとなった。三量体の形成がシャペロンの存在しないin vitroで可能であることがわかったことは、TAAファミリーの細胞表層アッセンブリー機構を解明する糸口となろう。
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