日本の海岸に面した森林、いわゆる水辺林では、アカテガニやヨコエビなどの生息がよく観察される。これらの甲殻類は落ち葉や木片などのバイオマスを食料として利用する。アカテガニやヨコエビは森林物質循環と河口域の生態系(特に魚類生産)の中で重要な役割を果たしているが、そのバイオマス分解メカニズムはほとんどわかっていなかった。本研究ではアカテガニとヨコエビの新規バイオマス分解システムを明らかにし、バイオマス有効利用技術への応用をはかることを目的とした。本研究で明らかになった新規の知見は以下の通りである。①アカテガニ由来消化管液の非常に強いグアヤコール酸化活性(リグニン分解活性の一つ)を検出した(白色腐朽菌の5倍程度)。②抗生物質処理のアカテガニは2週間程度で死に、グアヤコール活性も消失した。③アカテガニ、ヨコエビ由来の好気性細菌を単離した。④単離菌株の90%以上でセルラーゼ活性を検出し、複数の菌株からはリグニン分解活性を検出した。⑤アカテガニ、ヨコエビに共通する単離細菌株があり、それらはShewanella属とBacillus licheniformisに近縁の細菌であった。⑥Shewanella属とBacillus licheniformisの両者ともリグニンプレート上ではっきりしたハロを形成し、グアヤコール法とHPLC法でもリグニンを分解する能力を有することが示唆された。⑦リグニンプレート上でのハロ形成実験において、CMC(セルロース)の存在がハロの形成を増強していることが明らかとなった。⑧アカテガニから採取された細菌株のうち、Staphylococcus sciuriに近縁の株はハロ形成は示さないが、リグニン含有液体培養後の培養液のリグニン含量が大きく減少することがわかった。以上の成果から、今後は複数の細菌株を利用したリグニン分解システムを構築することが重要ではないかと考えている。
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