研究課題/領域番号 |
26630457
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
勝井 辰博 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (80343416)
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研究分担者 |
井上 朝哉 国立研究開発法人海洋研究開発機構, その他部局等, 主任技術研究員 (10359127)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 海底科学掘削 / ドリルパイプ / Stick-Slip / 中立型遅延微分方程式 / ドリルパイプ模型試験 |
研究実績の概要 |
本研究は海洋科学掘削に用いられるドリルパイプのStick-Slip現象の発生を数値シミュレーションによって高精度で予測することを目的としたものである。ドリルパイプ実機は最大で10,000mにおよぶ一方で直径は10㎝程度の極細長大管であるため、相対的な曲げおよび捩じり強度は小さい。このためドリルパイプを回転させて海底下を掘削する際、海底下の地質特性によっては、掘削部位であるドリルビット部にドリルパイプの回転を阻害する大きな摩擦トルクが作用し、これに伴って大きな捩じり振動が発生することがわかっている。これはStick-Slipと呼ばれ、取得するコアサンプルの品質低下やドリルビットの破損につながるため、この発生予測が望まれている。昨年度までの研究では中立型遅延微分方程式の数値解法に基づくStick-Slip現象の推定法の開発と模型試験による検証を行った。この手法の特徴は計測されるドリルパイプのトップドライブトルクからドリルビット部に作用する摩擦トルクを推定して数値解析に組み込むことであり、ドリルビット部の回転速度の計算結果は模型試験による計測値におおむね一致することが分かっている。本年度は実機スケールでの数値計算を実施するとともに過去に計測されたドリルパイプ実機のドリルビット部の回転速度の計測値との比較検証を行った。計測結果はサンプリング周波数が大きいため時系列による比較は難しいが、ドリルビットの回転数の変動分布については概ね一致することが分かった。また、海底摩擦トルクの変動の影響を数値解析に取り入れる手法の開発を行い。模型試験結果と矛盾のない計算結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の達成目標は昨年度までに開発を行ったドリルパイプのStick-Slip現象を予測するための数値解析法をドリルパイプ実機に適用し、その数値解析結果の検証を行うことである。計算対象としたドリルパイプは地球深部探査船「ちきゅう」に搭載されたドリルパイプの実機と同形状で掘削深度は3,200mとしている。この深度での掘削については過去にドリルビットの回転数の時間変化が計測されており比較検証対象として適している。なお、数値解析に必要な海底摩擦トルクの与え方については、昨年度までに模型レベルの計算のために開発したものと同じものを用いた。実機を対象とした数値解析結果は模型試験レベルのスケールと挙動が大きく異なり、ドリルビットの時間変動が極めて激しくなることが分かった。一方、ドリルビットの回転速度の計測結果はサンプリング周波数が1、すなわち1秒に1回の計測となっているため時系列を直接比較することはできないが、回転速度の変動振幅、有義値など基本的な量は概ね一致することが分かった。これにより当初の目的であった実機を対象とする数値解析の実施は達成しており、本研究は概ね順調に進展していると判断できる。ただし、実機の数値シミュレーション結果についてはより詳細な検証が必要である。ドリルビットの回転速度の変動振幅や有義値はよく一致するものの、周波数解析を行った結果は実験と計算に差が見られるためこの理由について明らかにし、より高精度な数値シミュレーション法を開発していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方針としては、これまでに開発を行ったドリルパイプのStick-Slip現象を予測するための数値解析法について、ドリルパイプ実機の挙動の予測精度の向上を図ることを目標とする。具体的な方針としては以下2点に集約される。 1.ドリルパイプ実機を対象としたときの海底摩擦トルクの与え方についての検討 本数値解析法の特徴は境界条件として設定が必要なドリルビットに作用する海底摩擦トルクをドリルパイプのトップドライブトルクから予測することにある。これまでの方法では模型試験による計測結果を参考にその設定方法を定めているが、これを実機用にカスタマイズする必要がある。具体的には系統的に摩擦トルクのモデルパラメタを変更した数値解析を行い、得られるドリルビットの挙動と計測結果の関係からあるべきパラメタ設定方法を検討する。 2.中立型遅延微分方程式の初期履歴の設定の仕方の検討 本研究で開発しているStick-Slipの数値シミュレーション法は、中立型遅延微分方程式の数値解法を基礎としている。中立型遅延微分方程式は、初期値ではなく方程式系の微分係数の初期履歴の設定を必要とする。この与え方には任意性があり与え方によっっては解の微分係数に不連続が生じることがある。したがって初期履歴が解の挙動に与える影響を調査して数値誤差を最小限にとどめ精度の高い数値シミュレーション法を構築する。
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