研究課題
原油回収効率の大幅な向上に資する技術として期待されているデジタル・コア・ラボラトリーの実用化に向け,多孔質内部の空隙スケールでの流動ダイナミクスの計測技術開発を行うと共に,取得した多孔質構造に対する直接数値解析を開始した.油で飽和された親水性多孔質から水攻法にて油の生産を行い,残留した油クラスターのサイズ分布を調べた.焼結ガラスのポアスロート比や配位数のバラつきが大きく,ガラスビーズに比べて不均質な構造をしているため,強いフィンガリングが発生しやすく,大きな無限大クラスターができる.また,親油性及び親水性焼結ガラスを用いて多孔質体の濡れ性がτの値に与える影響を調べた.親油性の場合τ=2.0002,親水性の場合τ=2.005となり,親油性焼結ガラスを用いた場合のτの値よりやや小さくなったが,濡れ性の影響は小さかった.将来のデジタルロック技術に向けた数値解析の技術開発を行うために,CT画像からデジタルロックを生成し,ポアスケールの多相流解析および濃度分布解析を行った.二相流解析でスピノーダル分解をシミュレーションし,ガス気泡の多孔質内部へのトラップ現象を再現した.この状態に対して,CCSの溶解トラップで重要となる物質輸送の数値解析を行なった.LBMとCIP法を併用することで,複雑な多孔質構造内でも三次元移流拡散方程式を解くことができた.その結果,主流においては下流に進むほど平均濃度が増加して物質溶解が弱まることが分かった.特に,濃度が飽和濃度に達した位置で溶解のフロントが形成されると考えられる.対流を強くすると,気泡表面からの物質供給が十分に行われている条件ではシャーウッド数との間で線形の関係になった.飽和率が増加すると,多孔体全体でCO2濃度が増加するとともに,飽和濃度に達するまでの距離が短くなった.これが原因となり,飽和率が増加するとき,物質輸送が低下することが示された.
2: おおむね順調に進展している
X線CTを用いた多孔質の空隙構造の取得と数値計算への実装は既に達成している.空隙スケールでの油の生産メカニズムについては,これまでにガラスビーズ充填層において観測を行った結果,ピストンライクディスプレースメントは観察されたが,スナップオフは観察されなかった.本年度は,焼結ガラス多孔質を用いて,多孔質媒体の表面荒さやポア・スロートの面積比を変化させた結果,スナップオフ現象を観察することができた.これと並行して,残留した油泡サイズを統計的に分析する手法を確立し,パーコレーション理論と呼ばれる数理モデルとの比較を行った.一方,本年度からデジタルロック技術の実用化に向けた数値シミュレーションにも着手した.CTにより取得した4種類の多孔質媒体に対して,単相流解析を行い,透過率などのパラメーターの取得の可能性と問題点について議論した.次に,多孔質内部の物質輸送特性の解明を目的として,次の3ステップの解析を行った.始めに,二相流解析により,スピノーダル分解過程を解析し,ガス気泡が多孔質内部に毛管力によりトラップされる様子を再現した.次に,ガス気泡回りの流動場を単相流解析により求めた.最後に,この流動場に対して物質輸送を解析して,ガス気泡と水の間の物質輸送特性を解析した.これらの解析にはTSUBAMEを用いている.以上のように,予定をやや上回るペースで研究は進捗している.
デジタルロック技術の実用化を目指して数値解析手法の高度化を図る.これまでの解析では,CT撮像された多孔質媒体に対して絶対透過率をダルシーの法則を用いて算出したところ,実験値よりも10倍~100倍大きくなった.これは多重緩和法(MR)Tモデルを導入することで改善可能と考えられる.本年度は,これらの解析手法の高度化およびTUBAMEの本格的な利用を行い,デジタルロック技術の実用化のマイルストーンとして,トラップされた気泡からの物質輸送特性の解明を行う.近年,ナノ粒子を水に分散させたナノ流体による原油回収法が提案されている.空隙スケールの可視化実験では,ナノ流体による原油回収メカニズムの解明を目的として空隙スケールの可視化に取り組む.
CT装置の高性能化を行った結果,高解像度撮像が可能となり,実験装置が小型化した.そのために,装置の作成費用や,供試流体の体積の減少による薬品使用量が減少したため.
本年度から本格的に利用するTUBAMEの使用料金に充当する.
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