研究課題
今年度は系統的な実験を行なうためのレーザー熱負荷装置の整備(特に試料ホルダーの製作)、成膜を行なうマグネトロンスパッタリング装置の整備と成膜実験、及び成膜した試料のパルスプラズマ照射予備実験を行なった。レーザー熱負荷装置の整備については、表面温度測定のための高速応答2色温度計の設置、加熱ヒーター付試料ホルダーの設置、放出粒子測定のためのプラズマモニターの予備テスト、などを行なった。また、表面に種々の材料を堆積させた場合は、レーザーの吸収率が異なるため、吸収率測定のための新たな熱絶縁ホルダーを準備した。今後はこれらを活用しながら、堆積層を形成した試料について、エネルギー密度やパルス幅などを変化させて表面の溶融・蒸発挙動を調べると共に、堆積層材料と基板材料(タングステン)の混合層の形成やその機械的特性を調べる。堆積層形成のためのマグネトロンスパッタリング装置により、タングステンとアルミの堆積層を形成し、その堆積速度を評価すると共に、堆積層の安定性について評価した。特にアルミの堆積層については、1ミクロン/時間程度の成膜速度を達成し、また20ミクロン程度の厚みまで成膜を行なったが膜の剥離などはなく、密着性の良い膜を形成できることが明らかになった。さらに上記のとおり作成したアルミ堆積膜試料について、パルスプラズマガンを用いてパルスプラズマによる熱負荷を印加したところ、表面の溶融と蒸発により堆積層が失われたが、その損失膜厚は、1次元の計算から想定される値であった。今後はこのような層が保護層として、どのような特性を有するかについて、系統的な研究を行なう予定である。
2: おおむね順調に進展している
実験を行なうためのレーザー熱負荷実験装置の整備が順調に進んでいる。具体的には、レーザー本体のセッティング、試料を設置するための試料ホルダー、試料の吸収熱量を測定するための熱絶縁ホルダー、表面温度計測のための2色温度計、などの準備がほぼ終わっている。また、堆積膜の形成条件についても、想定される中間融点堆積材料のスパッタリングを評価できる様に、アルミとタングステンで成膜実験を行ない、必要とされる膜厚(最大10ミクロン程度)を生成できる見通しを得ている。さらに、成膜の際に放電ガスに水素やヘリウムを注入することで、これらのガスとの共堆積膜の形成が可能となる。さらに、膜の密着性についても、アルミの場合には20ミクロンと必要な膜厚以上の厚みでも、剥離は見られなかった。さらに、パルスプラズマでディスラプション様の熱負荷予備実験を行ない、熱負荷が加わっても特に膜が剥離しないことを確認している。このように系統的な実験を行なうための準備はほぼ終了しており、来年度よりアルミ、スズ等の材料について、実験を行なう予定であり、研究期間内に成果が出せる見通しである。
タングステン材料の保護膜候補としては、核融合炉で使用可能と考えられる中間融点金属を中心に考えている。さらに、ITERで想定されるBeのシミュレーションとして、アルミ膜の実験も行なう。具体的な材料としては、シリコン(構造材料としてSiCの使用可能性があるため)、鉄(構造材として程放射化フェライト鋼の使用可能性があるため)、スズ(タングステンと金属間化合物を形成せず、タングステンの脆化への影響が少ないと思われるため)、の堆積膜(水素やヘリウムとの共堆積膜を含む)を保護膜として形成した試料について、レーザーエネルギー密度やパルス幅を変えて堆積層の損失や基板であるタングステンへの影響を系統的に評価する。また、基板のWと化合物層(混合層も)の溶融限界以下のパルス熱負荷耐性についても、高い繰り返し回数の溶融限界以下のパルス熱負荷を与え、表面の粗面化や亀裂発生等の表面損傷の発生状況より明らかにする。
当初の予定では、基板W試料や共堆積保護膜を形成するためのスパッタリングターゲット試料について、初年度に購入する予定であったが、適当な材料を選定するために予備的な実験が必要となったことや、詳細な検討を行なうべきとの判断から、試料のまとまった購入は次年度に先送りした。そのため、次年度に使用額が生じることになった。しかしながら、この判断は適当であり、基板タングステンとの化学反応性とそのパルス熱負荷照射後の表面層への影響評価を適切に行なったことで、次年度の研究がスムーズに立ち上がる見通しができた。
主にスパッタリングターゲット材料やタングステン基板材料、及び実験に必要な真空消耗品を購入する予定である。また、より適切な保護層の検討を行なうための資料収集旅費としても活用する予定である。研究概要で述べたように、実験の準備はおおむね終わっているため、これらの使用計画により、保護膜形成を進めた上で、パルス熱負荷実験を進め、研究期間内に成果を出す予定である。
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