研究課題/領域番号 |
26630479
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
酒井 保蔵 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70186998)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 磁気分離 / 下水汚泥 / 放射能汚染 / 除染 / バーミキュライト |
研究実績の概要 |
福島原発の爆発事故により、大量の放射性セシウムが大気中に放出され環境を汚染した。この中で土壌中の粘土微粒子がセシウムを吸着し、雨水と共に下水に流入して、終末処理施設の活性汚泥に捕捉され下水汚泥が放射能汚染された。この粘土物質(バーミキュライト)は常磁性であり磁気分離により除染できると考えた。本研究では、放射能汚染されている土壌の微細な土壌粒子を活性汚泥に添加し、低レベルの模擬汚染汚泥を調製し、放射能汚染された下水汚泥の磁気分離による除染の可能性を検討した。その結果、表面最大磁場1Tのマグネットバーを用いて、汚染汚泥中の粘土物質を磁気分離できることを示した。粘土物質が除去されるとともに、汚泥の放射能濃度も低下した。磁気分離を繰り返すことで最大で80%以上の除染が可能であることが分かった。一方で、磁気分離された粘土物質には放射性物質が濃縮できた。現在、福島周辺には大量の放射能汚染された下水汚泥が保管されているが、これらの汚泥に本方法を適用することで、放射性廃棄物として管理しなければならない8000 Bq/kg以上の少量の汚泥と、一般廃棄物として廃棄できる8000 Bg/kg以下の大部分の汚泥に分割できる可能性が示唆された。これらの研究成果は、第89回春季低温工学・超電導学会、6th International Workshop on Materials Analysis and Processing in Magnetic Fields (MAP6)、第49回水環境学会年会などで報告された。また、電気学会・超電導磁気分離システムを利用した除染技術」調査専門委員会に委員として参加し、下水汚泥の除染技術を中心に調査・研究を行ない、福島市で開催された2014年度 第3回材料研究会シンポジウム「福島除染に関する現状と問題点」に招待され、汚染下水汚泥の現状と問題点について講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
放射能汚染汚泥を磁気分離で薬剤や熱処理をおこなわず、シンプルに除染するという原理的な検討についてはほぼ目的を達成できた。結果も、8割の除染がおこなえるなど、報告されている薬剤処理や熱処理をおこなう方法より、良好な除染率を得ることができることが原理的な実験で確かめられた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で確かめられた磁気分離による汚染下水汚泥の除染技術は、装置も小さく原理的なものである。萌芽研究の範囲(2年目)では、入手可能な実汚染汚泥を探し、実際の汚染汚泥でも除染が可能かを原理的に確かめたい。そのために汚染下水汚泥の調査を進めたい。また、除染の効率向上に影響する因子を現行の小型の磁気分離装置と模擬汚染汚泥でさらに検討を進める予定である。萌芽研究の枠外では、今回の成果を受けて、実用的な下水汚泥の除染装置について、磁気分離装置のメーカーとの共同研究を模索し、本技術による社会貢献をめざすとともに、磁気分離技術の可能性を広げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
蒸留水製造装置の購入が必要なくなったため、60万円の予算を次年度分に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
汚染汚泥とその原因となる土壌を含めて、現地調査を充実させる。汚染汚泥入手のために福島原発周辺の下水処理施設の調査も必要となる可能性がある。磁気分離装置の高性能化に予算を増額する。より高磁場の磁石など高性能磁石の購入費に当てる。
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