初年度の模擬汚染汚泥の磁気分離実験により得られた成果をもとに、最終年度は、実汚泥を用いて磁気分離による除染プロセスの可能性を検証することを目的とした。栃木県宇都宮市の下水汚泥を用いて、磁気分離による除染プロセスの可能性を検証した。下水汚泥200L(沈降分離後の返送汚泥、放射性セシウム由来の放射能73 Bqを含む)を、マグネットバーを中心に設置したカラム内に通過させるることで、マグネットバーに付着する汚泥と、付着せず通過する汚泥に分離した。実汚泥による分離実験は初年度の模擬汚泥による実験で開発した磁気分離カラムを用いて、最適条件で実施した。実汚泥も、模擬汚泥と同様にマグネットバーに付着する磁性フロックが認められ、土壌中の常磁性のパーミキュライトが混入しているものと考えられた。200Lの汚泥を1回カラムを通すことで、0.1Lの磁気分離汚泥を回収できた。この汚泥中に、5.4 Bqの放射性物質を濃縮・回収できた。常磁性バーミキュライトに吸着された放射性セシウムと考えられた。実汚泥の放射能濃度0.37Bq/Lから、54Bq/Lまで濃縮されており、磁気分離によって約1/150まで減容化できることが示された。薬剤や熱処理を用いず、磁場中に汚泥を通過させるだけで、高濃縮された汚泥を引き抜ける本方法は省エネルギーに優れるだけでなく、除染処理による二次汚染を最小化できる有効な手段になると考えられた。一方で、繰り返しカラムを通過させても、未回収の放射性物質を効率的に回収することはできなかった。これを改善するには、超電導磁石による強磁場、高勾配の磁気分離が必要であると推察された。 また、電気学会調査専門委員会「超電導磁気分離システムを利用した除染技術調査専門委員会」に委員として参画し、南相馬視察を含めて研究会・委員会に参加し、情報収集、ディスカッションを行ない、電気学会技術報告書にまとめた。
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