研究課題/領域番号 |
26630480
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大野 雅史 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90391896)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超伝導 / 中性子計測 / 個体ホウ素コンバータ |
研究実績の概要 |
本研究では、前年度までにイリジウム/金薄膜(イリジウム層:100nm厚、金層:10nm厚)から成る超伝導薄膜温度センサ上に金バンプポストを作成し、その上にバルクの10B4C製中性子コンバータを搭載し極少量エポキシで固定した検出素子の作成プロセスを開拓した。しかしながら、本年度春以降、超伝導薄膜温度センサを構成するイリジウムおよび金を製膜するプロセス装置に不具合が発生したためイリジウム/金薄膜の供給が困難となった。そのため、イリジウム/金薄膜の代替として、モリブデン/銅の薄膜を用いたセンサの開発を進めた。具体的には、シリコンウエハ上に窒化シリコン1ミクロン厚を積膜した基板上にスパッタリングでモリブデン/銅のバイレイヤが製膜された基板を導入し、それにフォトリソグラフィおよび化学エッチング処理を用いてパターニングして超伝導温度センサを作成した。そしてニオブ電極、および裏面のシリコンを除去して、窒化シリコンメンブレン上にモリブデン/銅センサが製膜された構造の検出素子を作成した。この素子を希釈冷凍機にて極低温にまで冷却して、その超伝導転移特性を評価したところ、100mK近傍で超伝導転移するという想定と大きく異なる800mK付近での超伝導転移を確認した。この原因について、モリブデン/銅薄膜の化学エッチング処理時に上層の銅膜がオーバーエッチングされてエッジ部のモリブデン層が露出して、その部分が800mKで超伝導転移してしまうことを突き止めた。ただし、この素子の常伝導抵抗値は極めて低く、イリジウム/金膜の10%以下の低抵抗であることがわかった。これは、熱センサとして熱伝導率が高いことを意味しており、中性子入射によるコンバータ内での核反応の熱検出において高い感度を有することが期待される。また、超伝導転移温度を低減させるため、モリブデン/銅膜のエッジ部に金層を上から製膜したバンク構造を持つ素子の開発を進め、その試作素子を完成させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超伝導薄膜製膜装置の不具合により、素子開発に少なからず影響が出ている。しかしながらその代替としての素子開発を急いで進めており、その結果、これまで本研究者が適用してきたイリジウム/金膜より優れた熱伝導特性が期待される結果を得たことは、超伝導転移端センサの特性向上を図る上で重要な成果と考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在、超伝導薄膜製膜プロセス装置の修理を進めており、来年度前半には復帰することが予想される。装置復帰後は、イリジウム/金薄膜の検出素子開発も再開する予定であるが、今年度、代替として開発を進めたモリブデン/銅薄膜素子についても高い検出性能を実現させたい。なお、中性子コンバータの搭載工程については、すでに開発済みであり、100mK近傍で動作する超伝導薄膜検出素子が供給できれば、速やかに中性子検出が可能となる検出素子の完成、評価が実施できるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究における検出素子を作成するプロセス装置に不具合が生じ、イリジウム/金の薄膜供給が中断しているため、イリジウム/金超伝導薄膜センサの開発が遅れており、研究計画に変更が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度上半期に素子作成プロセス装置の不具合が回収される予定であり、それ以後、イリジウム/金超伝導薄膜検出素子の作成を再開し、素子作成に用いる、材料、試薬、また試作素子の評価に用いる極低温冷凍機システムの整備に次年度使用額分を投入していく。
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