放射線計測分野においては、しばしば独自の形状や構造の検出器が必要となることがあり、加工が容易なプラスチックシンチレータが広く用いられている。近年3Dプリンタの普及に伴い、複雑な形状の造形物を高精度に作成できるようになってきた。もし3Dプリンタの造形物としてシンチレータが得られれば、放射線計測分野において非常に有用である。そこで我々は、市販の3Dプリンタで造形可能な、シンチレーション光を発するUV硬化樹脂の開発を目的とした。 放射線との相互作用によって励起されやすいベース樹脂として、試行錯誤の上、M-211B(東亞合成)を選択した。また、シンチレーション光を発する薬剤およびその光を光検出器の感度の良い領域に波長変換する薬剤として、それぞれPPOとbis-MSBを採用した。これらは伝統的にシンチレータに用いられるものである。最後に光重合開始剤として、PPOおよびbis-MSBの発光スペクトルと吸収波長の重複しないIrgacure TPO(チバ・ジャパン)を選択した。 次に、ベータ線源を用いた発光量テストを通して、上記の配合比の決定を行った。その結果、PPOおよびbis-MSBは飽和濃度近くまで溶解させ、Irgacure TPOは0.05wt%以下に保つ必要があることがわかった。これらの配合比で得られた樹脂を、3DプリンタARM10で造形した容器に注ぎ、市販シンチレータと同じ形状のシンチレータを作成して、両者の比較を行った。実験では、ガンマ線、ベータ線源を用いた計測を行った。その結果から、両者はほぼ同等の性能を示す事が明らかとなった。 最後に、これらの配合比で作成したUV硬化樹脂を光造形式3Dプリンタ(MiiCraft: システムクリエイト)で造形したところ、自由な形状のシンチレータが作成できることもわかった。
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