原子炉圧力容器の高経年化に伴う中性子の照射脆化機構の解明には、中性子照射済み試験片内部組織の直接観察が不可欠であるが、現在国内ではすべての研究用原子炉が停止状態であり、中性子照射研究を実施する環境には至っていない。本研究は、これまでに照射したモデル合金等を有効に活用することを目的として、照射済みの試験片を活用しての電信線の追照射並びに照射強度が異なるイオン照射や炉の異なる研究炉などのデータから既存原子炉(PWR、BWR)の条件へ適応することが可能か検討した。 中性子照射試料の管理区域外への持ち出しは、原子力規制庁への申請が必要であるため、実験の開始以前に申請を行い許可を得た。その後、学内放射線関連内規の整備などを経て研究を開始した。 実際の実験はBR2にてFe-0.6%Cuに対して中性子を5.0x1024(n/m2)にて照射した材料にの通常のTEM観察を実施し、転位ループ、銅クラスター密度を測定した。転位ループには格子間原子型と空孔型の2つがあるが、これをHVEMにて電子線を室温にて照射することにより判定した結果、殆どのループが格子間原子型であることが明らかになった。銅クラスターのサイズが約10nm、その数密度は1.7x1022(1/m3)であることが測定されている。従来研究では、銅クラスターは3次元のアトムプローブを用いた観察が主体であった。本研究では、この試料に対して、さらに収差補正機能を有する電子顕微鏡にてSTEM-EDS法をもちいたクラスター観察を実施した。その結果、これまで不可能であった銅クラスターと転位ループとの同時観察が可能であるとの知見を得た。また、高経年化で問題となる60年運転期間相当照射量である照射量(5.0x1023(n/m2)程度)までの情報に下方修正し、脆化予測式との相関について議論した。
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