研究課題/領域番号 |
26630496
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
新川 和夫 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (00151150)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 再生可能エネルギー |
研究実績の概要 |
地球環境の保全のため、温室効果ガスの低減が緊急の課題となっており、クリーンで再生可能エネルギーのひとつである風力発電に注目が集まっている。これに伴い、風力タービンからなる風車が世界的に増加する傾向となっている。風力エネルギーは風速の3乗に比例するので、風車の設置場所として、風況の良好な地点を選定することが重要な課題となる。このため、平地が少なく風況が悪い国内では、沿岸地や山間地が風車の設置場所となっている。また地形や建物による影響を少なくするため、洋上風力発電も計画されている。このように風力発電には、風況のより良い地点が求められている。
風は地表の摩擦の影響を受けるため、風速は地表近くでは小さく、高度が増すにつれて大きくなる。風速の高度分布として指数則が成り立つこと、また植生や建物などによる地表の粗度が大きいほど、地形が複雑なほど風速の変動が大きくなる。このため、多くの風車は平坦な陸地や沿岸部のタワー上に設置されている。風車のタワーを高くすれば発電効率は上がるが、強度やコスト面で問題が発生する。「さらに上空の風をとらえるには?」という考えから本研究は着想したものである。
申請者は (1)上空の風力エネルギーの取得法として「インフレータブルカイト」、「飛行船と風車」、「回転気球」の利用、(2)エネルギーの伝達法として、係留高分子繊維ロープのトルクと張力の応用、(3)ロープのトルクと張力により、地上で発電する技術開発を行ってきた。平成27年度の研究成果として、後述の「雑誌論文」の欄に記載した査読付論文2報があげられる。その内の1報は上空風車のための軽量高強度材料である炭素繊維強化プラスティックの開発に関係するものであり、他の1報は地上で発電するための高分子圧電材料の開発に関連するものである。なおこれら研究成果の詳細は後の頁で説明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、現在未利用である上空・高度域の風力エネルギーを取得し、地上で発電する技術を開発することである。そのため、風力エネルギーの取得法して「インフレータブルカイト」、「飛行船と風車」、「回転気球」の開発を進めてきた。また取得したエネルギーの伝達法として、係留高分子繊維ロープのトルクと張力を応用した。このため重量の大きい発電機や電線を用いる必要はなく、大幅な軽量化が可能となる。さらにロープのトルクと張力により地上で発電する技術を開発した。またカイト、回転気球、飛行船を利用する上で重要となる繊維ロープおよび高分子系複合材料の強度評価も実施した。
平成27年度に得られた主な研究成果は、上空風車のための軽量高強度材料である炭素繊維強化プラスティック(CFRP)の開発に関係するものであり、他は地上で発電するための高分子圧電材料の開発に関連するものである。1)「軽量高強度材料」の研究では、カイトや風車の軽量・大型化を図るためのCFRPを作製するための研究を行った。具体的にはCFRPを真空樹脂含浸法(VaRTM)で作製し、材料の力学特性評価を行った。これを更に発展させることにより、風車の大幅な軽量化を図ることが可能となった。さらに、CFRPと軽量化膜材を応用することにより、比較的比重の大きいゴムで作製されたインフレータブルカイトの大幅な軽量化を進める上で可能性を広げることができた。2)地上で発電するための「高分子圧電材料」の研究では、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製のケーブルならびにフィルムを応用することにより、PVDF圧電複合材料の開発を行った。これにより係留ロープの張力やトルクによる地上発電の可能性を実証した。また同時に実用化に向けての課題点を検討した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究において、回転気球と風車の回転安定性を改善し、風力エネルギーの取得法に改良を加えた。さらに上空・高度域からの風力エネルギーの伝達・変換するための技術開発にも着手した。具体的には、(1)トルク計と張力計を直結させた装置を用いていたが、この装置は静的トルク値しか計測できず、発電機と直結できない欠点があった。このため係留ロープのトルク・回転数、さらに発電量が直接計測できるような装置の開発を進めた。(2) 真空樹脂含浸法(VaRTM)を用いて炭素繊維強化複合材料(CFRP)を開発し、風車へ応用した。この方法では真空圧で樹脂を注入して成形するため、大型で複雑な形状を比較的容易に成形することを可能とした。
平成28年度では、前述の研究を継続するとともに、風車作製以外にVaRTM法による大型カイト作製にも挑戦する。前述のように、従来のインフレータブルカイトは比較的比重の大きいゴムで作製されているため、風速4m/s以下の微風では掲揚することが非常に困難であった。軽量高強度のCFRPと膜材を用いることにより、超軽量大型カイトを作製すことができれば、係留ロープの張力を応用した発電法の開発に大きく進展することができる。これによりこれまで継続してきた係留ロープのトルクを応用した発電法と比較することができるようになる。係留ロープの張力またはトルクで発電する方法は長所と短所があり、一概に優劣を決めるのが困難である。係留ロープの張力とトルクによる発電法を用いて実測を行うことにより、最適な発電法を提案する。これらの研究から得られた成果を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究では消耗品費を抑えることができたため, 200千円を次年度に繰越すこととした。したがって,平成28年度は、当初助成金800千円より200千円多い、1,000千円の経費で研究を実施する計画である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、経費1,000千円で研究を実施する。その使用計画は下記の通りである. (1)新規回転風車の改良のための材料・部品費として250千円を計画、(2)小型風レンズ風車の軽量化のための材料費として250千円を計画、(3)新規回転風車と小型風レンズ風車の掲揚料として250千円を計画、(4)研究成果発表のための旅費として250千円を計画。
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