研究課題
従来の研究で、水の光分解活性を示すKTaO3をポルフィリン系色素で表面修飾すると、活性が向上することを見出した。本研究では色素修飾光触媒の電荷分離機構を明らかにするとともに、光生成した電荷の輸送を担う有機半導体を用いて電荷分離寿命を延ばし、太陽光下で効率よく水を分解する光触媒を開発することを目的としている。今年度は、電荷輸送を担う有機半導体の探索を中心に検討した。これまでの研究で、ポルフィリン系色素のCr-TPPClとコロネン等の多環芳香族炭化水素を組み合わせると活性が向上したことから、KTaO3に対する多環芳香族炭化水素の修飾効果を検討した。その結果、ポリアセン系化合物の修飾効果が比較的高いことを見出した。特に、トリイソプロピルシリル (TIPS) 基を有するTIPS-ペンタセンで修飾したKTaO3光触媒が高い水の光分解活性を示した。さらに、ペンタセンと類似の分子構造を有するジフラノアントラセンを用いてKTaO3の水の光分解活性に与える置換基の効果を検討したところ、TIPS基よりもトリメチルシリル基等の嵩高くない置換基の方が活性の向上効果が高いことが分かった。この系において、置換基の嵩高さは有機半導体の自己組織化の度合いに影響を与え、自己組織化の度合いは有機半導体の電気伝導度に影響を与えることから、KTaO3の水の光分解活性は修飾する有機半導体の電気伝導度に大きな影響を受けると考えられる。以上より、有機半導体の電荷輸送層の導入は色素修飾光触媒の水分解活性の向上に有効であることを見出した。今後、電荷分離を担う色素と組み合わせて用いることで、更なる水分解活性の向上が期待される。
2: おおむね順調に進展している
今年度の研究は、色素修飾光触媒に対する有機半導体電荷輸送層の導入効果の検討と、電荷分離機構の解明が主な目的であった。今年度は、主に多環芳香族炭化水素を分子構造に有する有機半導体の修飾効果と、有機半導体の置換基(凝集状態)の変化が活性に与える影響について詳細に検討し、有機半導体層の電気伝導度と修飾効果に関する知見を得ることが出来た。一方で、電荷分離機構については、様々な検討は実施しているものの解明するところまでは到達しなかったことから、おおむね順調に進展していると自己評価した。
現在のところ、高い電気伝導度を示す有機半導体の電荷輸送層を触媒表面に導入することで、KTaO3光触媒の水の光分解活性に正の効果をもたらすことを見出している。今後、KTaO3との間の電荷分離を担うポルフィリンやフタロシアニン、ビピリジル等の金属錯体と有機半導体を組み合わせて活性の向上を狙うとともに、錯体色素-有機半導体間のエネルギー伝搬機構を過渡吸収や過渡蛍光分析、アクションスペクトル測定により検討する。さらに、KTaO3の他にもTaONやSnSなど、これまでの検討で金属錯体の表面修飾による活性の向上効果が得られた無機半導体についても同様に検討する。一方、KTaO3-金属錯体間の電荷分離機構についても詳細に検討し、励起電荷の再結合の抑制機構を明らかにする。さらに、金属錯体に置換基を導入することで電荷分離サイトの増加を試みる。また、これまでの研究成果で高い効果を示すことを明らかにした有機半導体層を導入した光触媒系に対して最適な助触媒の種類・担持方法を探索し、助触媒を最適化することで光触媒表面の気体生成の過電圧を低減して水分解活性の向上に繋げる。
研究計画では今年度に利用する予定だった実験装置が修理や移設により使用できず、実験計画で計上していたサンプル作製用の試薬や基板、ガス、測定セル等の予算の大半が浮いてしまったため、次年度使用額が発生してしまった。
現在、実験装置は使用可能な状況にあることから、当初の計画通りに基板やガスを購入して測定用サンプルを作製し、装置に合わせて設計した測定セルを購入して、実験を実施する。また、来年度は助触媒の探索やCO2光還元、太陽電池等の他の光エネルギー変換の研究も実施するため、金属塩等の試薬の購入や、対極用の金属板や作用極用の透明電極、電解液といったデバイス作製用の部材の購入に使用する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (6件)
Chemical Communications
巻: 50 ページ: 12515-12518
10.1039/c4cc05127k
Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry
巻: 277 ページ: 27-36
10.1016/j.jphotochem.2013.12.007
Journal of Materials Chemistry A
巻: 2 ページ: 12952-12961
10.1039/C4TA02720E
New Journal of Chemistry
巻: 38 ページ: 5846-5855
10.1039/C4NJ01034E
Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects
巻: 451 ページ: 136-143
10.1016/j.colsurfa.2014.03.059