【背景】近年、「電気薬学」が注目されている。電気薬学療法とは、神経を電気刺激することによって病気を治療する方法である。中枢神経においても脳深部刺激などの電気療法が、うつ病などの精神疾患の治療に有効であることが示されているが、視覚障がいに応用した例はほとんど存在しない。申請者は、「地磁気」情報を電気シグナルに変換し、視覚野へ送り込むことにより動物の定位能力を回復させることができないかと考えた。 【方法】地磁気センサーと刺激電極を組み合わせた小型デバイスを開発した。本デバイスを、瞼を縫合したラットの両側の一次視覚皮質に埋め込み、頭部方向に応じたシグナルを入力した。本ラットを用いてT字型迷路および五本腕迷路試験の二種類の空間学習課題を行った。 【結果・考察】視覚皮質にセンサーを埋め込んだ群は、空間学習課題の成績が正常群と同程度まで回復した。さらに、電気刺激を作業記憶として蓄え、その後のテストに応用できたことから、ラットがシグナルを能動的に活用して課題を解いたことも明らかになった。本結果から、地磁気情報を電気シグナルとして脳に直接送ることで、視覚欠損により失われた空間把握能力を補完できることが示された。
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