恐怖条件付け文脈学習課題を用いて、形成直後の「新しい記憶」と形成後1ヶ月経過した「古い記憶」との性状を比較した。恐怖条件付け1日あるいは8週間後に、電気ショックを与えたチャンバーにマウスを3あるいは10分間戻して、恐怖記憶を想起させ、海馬にタンパク質合成阻害剤アニソマイシンを注入してその効果を解析した結果、8週間経過した古い記憶であろうとも、10分間チャンバーに戻すと、恐怖記憶が破壊されることが明らかとなった。従って、10分間チャンバーに戻して、長時間想起させることで海馬依存的な再固定化が誘導されることが示された。さらに、恐怖条件付け8週間後に、電気ショックを与えたチャンバーにマウスを10分間戻し、さらに、この24時間後にチャンバーに戻して恐怖記憶を想起させた(テスト)。このテストにおいて海馬にリドカインを注入して海馬を不活性化すると、恐怖記憶の想起は観察されなくなった。さらに、in vivoユニット記録、脳搭載型小型蛍光顕微鏡を用いたカルシウムライブイメージングの解析を試みた。以上の結果と昨年度の成果から、「古い記憶」であろうとも、長い時間想起させることで、海馬依存性が復活することが強く示唆された。これまで、教科書的にも、古い記憶には海馬は必要ではないと考えられてきたが、本研究により、古い恐怖記憶を長く想起させると海馬が活性化され、海馬依存的な記憶に戻ることが強く示唆された。以上までの成果に基づき、今後、古い記憶の長い時間の想起後に海馬依存性が復活する分子メカニズム、さらには、記憶制御に対する海馬依存性復活の意義を明確にすることが必要である。
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