研究課題/領域番号 |
26640021
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山田 陸裕 国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 上級研究員 (90469924)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 視交叉上核 / 位相応答 |
研究実績の概要 |
昨年度までに、視交叉上核において環境時刻情報の伝達と内部表現を担う物質(主に神経ペプチド)を包括的に同定し、これらの物質が視交叉上核の内部時刻を昼の時間帯と夕方の時間帯にリセットする2群に分けられることを明らかにした。本年度はその生物学的な意義を問うための数理モデルを作製した。このモデルは、2振動子、異なる誘導時刻をもつ2つの物質、それぞれの物質に対するレセプター分布、を仮定するシンプルなモデルであるが、実際のマウス視交叉上核に観察される位相差(時刻差)を伴う概日振動パターンを再現することに成功した.このモデルから、視交叉上核は誘導時刻に近いタイミングで放出される物質とその反対のタイミングで放出される物質を使い分けることによって時刻分布を収束させたり拡大する働きを協調させ、位相差を実現している可能性が示唆された。 さらにこのモデルから、視交叉上核の振動パターンを任意に制御できることが予想された。この予想が実際の視交叉上核で裏付けられればモデルの妥当性の証左となる。そこで、独自に開発した灌流培養系を用いて人為的なタイミングで時刻情報伝達を担う物質を培養視交叉上核組織に与え、視交叉上核を構成する多数の神経細胞の時刻分布を顕微鏡タイムラプス画像の時系列解析によって評価した。モデルによれば、通常の位相関係(背側が腹側に比べて位相が進んでいる)が逆転することが予想されており、現在までのところ実際の観察結果はその予想に近いものである。視交叉上核が環境時刻を内部表現する仕組みが明らかになってきたことで、環境の緩やかな時刻情報の変化が内部時刻に影響する仕組みについて検討を進める素地が一段と整備されたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属研究室が平成27年3月末に兵庫県神戸市から大阪府吹田市(大阪大学吹田キャンパス内)に引越し、マウス飼育施設の新規立ち上げが必要であった。同年4月以降は視交叉上核サンプルの採取は停止し、実験環境の再構築に注力した。研究の遅れを最小限に留めるために、引越前に作製して維持していた培養視交叉上核スライスを用いて観察を続け、また、これまでに取得したデータ(主に画像データ)の解析を行うことでモデル作製と検証については一定の成果を得ることができた。しかしながら、所属研究室の活動全体を支える研究インフラを整えることが最優先課題となっているため、本研究課題の進捗は停滞しがちであった。
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今後の研究の推進方策 |
所属研究室のマウス飼育施設の立ち上げを完遂することは本研究課題を推進するためにも不可欠であり、引き続き最大限の努力を傾注する。一方で、本研究課題はすでに論文準備のための仕上げのデータ取得段階に入っていると認識しており、必要性を精査しながら現実的な時間・物質リソースの中で実験データを取得することに努める。具体的には、時刻分布を拡大させる働きをもつと予想される物質候補1つについて検証実験が不足しているので追加する。また、モデルの予測を裏付ける観察の再現性を確認する。さらに、これらの知見に基づいて、環境の時刻情報を伝達する物質の濃度が緩やかに変化する場合の視交叉上核の応答について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属研究室の引越しに伴いマウスを用いた実験に停滞が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度分の助成金を合わせて主に物品費として使用する.
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