研究課題/領域番号 |
26640024
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
志賀 隆 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50178860)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 皮膚刺激 / 環境要因 / 不安 / うつ様行動 / 記憶学習 / 温痛覚感受性 |
研究実績の概要 |
生後発達期の皮膚刺激が脳の形成や行動の発達に及ぼす影響を明らかにするために以下の実験を行った。マウス(BALB/cCrSlc)を用い、出生後に仔をMS(Maternal separation)群、TS(tactile stimulation)群、C(control)群に割り当てた。MS群は生後1日~10日の間、毎日3時間仔マウスを仕切り付きの他のケージに移し、母親と兄弟から1匹ずつ隔離した。TS群は生後1日目から10日目までの間、母仔分離した仔マウスの背中を乾いた絵筆(筆先は約2cm)を用いてなでて刺激した。3時間の母仔分離中、1時間当たり5分間、合計で1日15分間の皮膚刺激を各仔マウスに与えた。C群は何も操作をしなかった。MS群とTS群について、生後に集音マイク(UltraSoundGate 116Hm recorder)を用いて超音波発声を録音し、Avisoft-Pro (Avisoft-Bioacoustics)を用いて解析した。その結果、MS群と比較して、TS群では生後2日、5日、7日で1分間あたりの発声回数が増加した。その後、生後8~11週でオスの行動実験を行った。まず高架式十字迷路を用いて不安様行動を評価したところ、3群で差は見られなかった。次いでホットプレートテストを用いて温痛覚感受性を評価したところ、TS群は他の2群と比較して有意に潜時を増加させ、温痛覚感受性が緩和されていることが示された。また、モリス水迷路を用いて空間学習・記憶を評価したところ、TS群はMS群と比較してトレーニングの2日目でのプラットホーム(PF)到達時間が有意に短縮し、学習能力の向上が示された。最後に強制水泳試験を用いてうつ様行動へのMSとTSの影響を調べたところ、floating、swimmingの持続時間に有意な差は無かった。従って、皮膚刺激によって新生仔期の超音波発声が増加すること、成長後の温痛覚感受性が低下し、空間学習能力が向上することが明らかになった。現在、C57BL/6Jについても同様の実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生後発達期での複数の皮膚刺激法についてBALB/cCrSlcを用いて検討し、生後発達期の超音波発声を増加させるとともに、成体期の行動(温痛覚感受性、記憶学習)を向上させる皮膚刺激法を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はC57BL/6Jの行動の発達に対する皮膚刺激の影響について、引き続き解析する。さらに、BALB/cCrSlcとC57BL/6Jについて皮膚刺激が脳の発達に与える影響について以下の実験を行う。 (1)C群と比較して、TS群で超音波発声が増加していた。そこで、TS群のストレス状態を調べるために、TS群とMS群の血中コルチコステロン濃度をELISA法によって調べる。(2)皮膚刺激によって賦活化される脳部位の解析:生後1日目(皮膚刺激の開始日)、5日目(皮膚刺激の中間日)、10日目(皮膚刺激の終了日)に、皮膚刺激から2時間後に灌流固定する。全脳の凍結切片を作成し、c-fos抗体を用いた免疫染色を行い、皮膚刺激によって賦活化されるニューロンの分布を調べる。必要に応じて刺激後2時間より長いものも検討し、c-jun等の抗体も試す。解析では、賦活化される脳部位と快情動や不安、ストレスに関与する脳部位(前頭前野、側坐核、海馬、扁桃体、視床下部など)の関連に注目する。(3)5-HT、5-HT受容体と5-HTトランスポーター(SERT)の定量:5-HTとその代謝産物量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって定量する。また、記憶や不安への関与が示唆されている5-HT1A受容体、2A受容体,7受容体、SERTのmRNAの発現量を定量RT-PCR法によって定量する。mRNAの発現量に変化が見られた場合は、Western blot(WB)によってタンパク質発現量を定量する。さらに、これらの解析で発現量に変化が見られた場合は、凍結切片を作成し、5-HTニューロンとその軸索の分布、および5-HT受容体とSERTの発現細胞について特異抗体を用いた免疫染色(IHC)によって細胞組織レベルの解析を行なう。(4)樹状突起の発達とシナプス形成:ゴルジ鍍銀法を行い、前頭皮質と海馬の錐体細胞の樹状突起の長さと分岐回数、樹状突起スパイン密度とスパインの成熟の度合いを調べる。
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