不規則かつ長時間の覚醒はエネルギー代謝やホルモン調節に悪影響を与え、生活習慣病のリスクを上昇させることが知られている。しかし適切なモデル動物が存在しないため、睡眠覚醒調節システムとエネルギー代謝システムの関連性は詳細に解析されていない。そこで、本研究では、睡眠覚醒系-各代謝系のシステム間ネットワーク解明の足掛かりとなる慢性的睡眠不足モデルマウスの開発することを主目的とした。 睡眠覚醒調節に重要な役割をになうことが示唆されている、大脳基底核の一部、側坐核のアデノシンA2A受容体神経をイベルメクチンによって特異的に抑制させて睡眠を阻害する処置をしたマウスの脳波を測定し、睡眠解析を行った。睡眠量の減少は見られたものの、慢性的睡眠不足といえる状態には至らなかった。脳波を利用した自動断眠装置による断眠を試みたが、物理的刺激にマウスが慣れてしまい、これも十分な睡眠阻害ができなかった。一方、別の研究を進める中で、脳の一部を特異的に損傷させることで、少なくとも1ヶ月、持続的に睡眠量が40 %以上減少するマウスを偶然に見出した。慢性的睡眠不足といえる状態を示すこのマウスをモデルマウスとし、摂餌量と体重を定期的に測定した。モデルマウスの摂餌量は対照群と比べて多く、また体重は施術から3週目に増加し始めた。本研究課題の期間中に研究施設の移設があったため、体重と摂餌量の長期測定はできなかったが、作製した慢性的睡眠不足モデルマウスが、睡眠不足とエネルギー代謝の関連性を研究する上で有用な動物であることが期待できる結果が得られた。
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