本研究では、微小管の不安定化・減少が起点になりタウオパチー形成が起こるという新たな仮説をほ乳類の脳を用いて解明することを目的とし、脳内における正常タウを可視化する組織学的解析法の構築、その利用によりタウの詳細な細胞内局在を解析した。 本年度は、本研究に新たな追加実験を実施したため、ウォーラー変性遅延マウスを用いての微小管安定化とタウの病態形成の解析を実験計画通りに進めることができなかった。前年度の解析により得られた内在性マウス型タウ (内在性タウ)および、外来性ヒト変異型タウ (外来性タウ) の局在から、タウのより詳細な局在解析が必要であると判断し、超解像度顕微鏡(STED)での高解像度によるタウの局在解析を追加した。高解像度による解析により、タウオパチー病変を再現するタウトランスジェニックマウス (タウTgマウス)脳内における内在性タウの局在は、野生型マウスと同様に軸索上に不連続であったが、外来性タウは樹状突起への局在異常が認められ、さらにその局在は内在性タウと異なり直線状であった。このことから神経変性を引き起こすヒト変異型タウと内在性の正常なタウのこの局在の違いがタウオパチー発症に大きく関与していると考えられる。 本研究によりこれまで不明であった脳内(in vivo)における正常なタウの検出に成功した。これにより正常な神経細胞からタウ蓄積の形成過程すなわち脳内におけるタウの病変を捉えることが可能になった。今後、この応用によりADの発症段階に応じた効果的なタウ療法の開発に大きく貢献できると考えている。
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