アルツハイマー病を題材にして、予防戦略の新たなアイディアを提供することを目的とする。Aβ仮説に則るが、神経細胞死やAβの急性の効果が現れないような実験条件に設定した。このような実験条件下では、Aβの慢性効果(毒性)を打ち消すように、神経細胞ネットワークの恒常性維持機構が働くと仮説を立て、検討を行った。100nMのAβを投与後1週間たった時点では、培養温度と同じ37℃ではAβとコントロールペプチドとの間に発火頻度の差は生じないが、測定温度を下げると(28℃) Aβ投与神経細胞ネットワークのみ発火頻度が減少した。このことからAβ毒性に対する恒常性維持機構には温度依存性があることが考えられた。このときの、シナプスの形態的特徴を解析する目的で、VGluT1(興奮性シナプス)とGAD65(抑制性シナプス)の蛍光抗体染色を行った。この結果、Aβを慢性投与しても、興奮性/抑制性シナプス比は変化しなかった。一方、シナプスのサイズを染色像から検討すると、Aβ慢性投与によってシナプスサイズが減少することが示唆された。この結果は、AβがLTDを引き起こすという先の報告に合致する。シナプスの総数に関しても減少傾向はあったが、有意差はなかった。ヒトにおいて加齢に伴ってAβが蓄積しつつも、認知症症状を呈さないための内因的防御メカニズムが存在するはずであり、以上の結果がその分子機序の解明に繋がると考えている。ただし、これまでAβの分子状態に関しては不問のまま、実験を行ってきた。しかし、オリゴマー化したAβこそが、細胞毒性を示す分子実体であるとする仮説および報告がなされている。そこでAβのオリゴマー化を定量的に評価する必要があると考えた。そこで、溶液中のAβオリゴマー化に関する評価系の立ち上げを行った。実際には蛍光相関分光法(FCS)により、蛍光ラベルされたAβを用いて行った。
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