研究実績の概要 |
Selkoe らのグループにより、αシヌクレイン (αSyn) が生理的条件下で安定なテトラマーを形成することが報告されたが(Bartelsら、Nature 2011, Dettmer ら、JBC 2013)、そのメカニズムは不明である。αSynオリゴマーの神経変性における病理学的意義を考慮すれば、この現象を深く理解することは重要である。そこで、安定な存在とされるαSynテトラマーの特異抗体の作製を通して、疾患に関与する病的オリゴマーへと移行するメカニズムを明らかにすることを計画した。架橋剤を使用した血液サンプルの電気泳動結果では、オリゴマーに相当する複数のバンドが見られると共に、テトラマー相当の産物はスメアバンドを伴い必ずしもメジャー産物ではなく、これをゲルから切り出して均一抗原とするのは極めて困難であると考えられた。このため本来の目的である疾患に関与する病的オリゴマーの形成メカニズムの解明に迫るべく、テトラマーを形成しにくいことが報告されたA53T変異型(Dettmerら、Nat. Commun. 2015)のヒトαSynを過剰発現させたトランスジェニックフライでのプロテオーム及びトランスクリプトームの網羅的解析を行った。その結果、野生型のαSynを発現させた個体に比べて、A53T変異型のαSynを発現させた個体では、ミトコンドリアに局在し、家族性パーキンソン病原因遺伝子の一つであるPINK1のリン酸化標的でもあるTrap1 (TNF receptor associated protein 1) が顕著に減少することを明らかにした。Trap1はHsp90ファミリーのシャペロンであることから、A53T変異型αSyn発現個体では、シャペロン機能の欠損によるテトラマー形成不全がミトコンドリアの機能不全、酸化ストレスの促進を引き起こす可能性が考えられ、新たな展開が期待される。
|