研究課題
近年、統合失調症、知的障害、自閉症などの神経精神疾患の原因あるいは危険因子と考えられる遺伝子が次々と同定され、これらの疾患関連遺伝子の多くは脳シナプスの形成、機能調節に関与することが明らかになりつつある。本研究は、シナプス形成過程の微細構造変化とこれら機能分子の挙動を溶液中で大気圧走査型電子顕微鏡 (ASEM)と光学顕微鏡で同時に解析する系を樹立し、機能分子とシナプス形成および微細構造変化との関わりを明らかにすることを目的としている。本年度はSiN薄膜窓を備えた特殊培養ディッシュ (ASEM dish)表面をポリ-L-リジンとラミニンとでコーティングすることで神経細胞の初代培養に成功し、その観察を行なった。また、シナプス前終末を分化誘導する細胞接着分子の細胞外領域を磁気ビーズにコートすることでASEM dish上の任意の場所にシナプス前終末の構造を誘導し観察できることを示した。さらに、シナプス前終末の分化誘導に伴うシナプスマーカーの発現を免疫電顕法により観察した。光学顕微鏡による観察でシナプス前部に存在するタンパク質が磁気ビーズの周辺に集積してくることが観察され、金増感した後、同一視野をASEMで観察すると、アクティブゾーンのタンパク質Bassoonを標識した金粒子と軸索が磁気ビーズの周辺を取り巻くよう存在していることが観察された。初代培養とASEM免疫電顕法の組み合わせは、神経細胞における機能分子の解析に極めて有効となると思われる。
2: おおむね順調に進展している
本年度は当初の目的の一つである磁気ビーズを用いたシナプス前終末の分化誘導の観察系の樹立に成功している。また、初代培養神経細胞を用いた実験系において、光顕と電顕による相関観察が可能であることを示すことができ、本研究課題はおおむね順調に進展しているものと考える。
光顕と電顕による相関観察の際に、タンパク質を1次抗体により標識し、FluoroNanogold Fab’で2次標識を行なうが、2次標識の効率が当初想定したよりも高くなく、細胞膜をより透過できるように界面活性剤等の条件を検討する必要があると考えられる。また、ASEMによる初代培養神経細胞観察時にグリア細胞の混入が解像度を下げる要因の一つになっている。これについてはAra-Cを用いてグリア細胞の増殖をコントロールすることで改善させる予定である。今後は培養法および染色法を改善させつつ、シナプス形成の過程の大気圧走査型顕微鏡による解析を引き続き行なって行く予定である。
染色法と初代培養神経細胞法の改善が必要であるため、本年度購入予定であった抗体および培養ディッシュの使用量が当初の予定より少なかった為。
次年度に方法論の改善をし、次年度使用額とH27年度請求額をあわせて観察に必要な器具および消耗品を購入し、研究を推進させる予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Nature Communications
巻: 6 ページ: 6926
10.1038/ncomms7926
Ultramicroscopy
巻: 143 ページ: 52-66
10.1016/j.ultramic.2013.10.010