研究課題/領域番号 |
26640051
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 健雄 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10201469)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アフリカツメガエル / 器官再生 / 自己免疫応答 / 免疫細胞 / 再生芽 / PhyH-like / interleukin-11 / keratin-18 |
研究実績の概要 |
アフリカツメガエル(Xenopus laevis)幼生(オタマジャクシ)は高い尾再生能をもつが、発育段階で一時的に再生能を失う(再生不応期)。応募者らは不応期とその後の可能期では尾切断後の免疫応答が異なることを見出し、不応期幼生を免疫抑制剤処理したり、免疫細胞分化に働くPU.1をノックダウンすると再生能が顕著に回復することを発見した[Fukazawa et al. Development (2009)]。このことは、再生芽増殖細胞が未熟な「自己反応性」の免疫細胞により、「非自己」として認識・攻撃されることを示唆している。しかしながら、再生芽細胞を攻撃する「自己反応性」免疫細胞や、再生芽細胞が発現する「自己抗原」の実体は不明である。本研究ではこれらの免疫細胞や「自己抗原」を同定し、その再生における役割を解析することで、将来的には再生能の人為的賦活化のための新たな手掛かりを得ることを目的とする。 昨年度までに、再生に阻害的に働く「自己反応性」免疫細胞の候補として、機能未知遺伝子xPhyH-likeを選択的に発現する血液細胞を同定した [Naora et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. (2013)]。XPhyH-likeは全身では不応期に一過的に発現し、一部の血球分画で発現すること、またその発現細胞は不応期個体の尾切断端に集合していた。一方、尾の再生芽の増殖細胞選択的に発現する遺伝子をRNA-seqにより網羅的に検索した結果、interleulkin-11 (il-11)やkeratin-11など、10種類の遺伝子を同定した[Tsujioka et al., PLOS ONE (2015)] 。この内、il-11は再生芽細胞の未分化能維持に働き、keratin-11は「自己抗原」になる可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、本研究では、再生芽細胞を「非自己」として攻撃する免疫細胞や、再生芽細胞が発現する「自己抗原」の実体とその再生における役割解明を目的としている。これまでの研究で、これらの両者の課題において、重要かつ手堅い知見が得られた。前者としてはXPhyH-likeを選択的に発現する血液細胞を、その候補として同定した。XPhyH-likeは従来、血液細胞集団のマーカーとしては捉えられてこなかった。また、XPhyH-likeが全身では不応期に一過的に発現することは、不応期にこの血球細胞が一時的に増加することを示唆しており、これまで全く未知であった新規な免疫細胞の発見に繋がる可能性がある。 一方、再生芽増殖細胞をFACSを用いて単離し、その遺伝子発現プロフィルをRNA-seqで網羅的に解析する新規な手法により、再生芽増殖細胞選択的に発現する遺伝子群が同定された。その中でil-11はゼブラフィッシュの心臓再生時に誘導される ことから[Fang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2013)]、種を超えてil-11が器官再生に働く可能性が示唆された。またkeratin-18のホモログであるOuro1と2は、アフリカツメガエルの変態期に自身が「自己抗原」として免疫細胞により攻撃されることで尾退縮に働く [Mukaigasa et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2009)]。従って、同様に、尾再生でもkeratin-18を発現する再生芽増殖細胞が「非自己」として誤認されることで、尾の再生が阻害される可能性が考えられる。以上、概ね順調に進展していると自己点検している。
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今後の研究の推進方策 |
再生芽に対する「自己反応性」免疫細胞の同定に関しては、哺乳類で同定されている各種免疫細胞マーカーと二重染色することで、XPhyH-like発現血球細胞を同定する必要がある。この血球細胞種を同定した上で、同じ細胞が、アフリカツメガエル成体の器官再生に対しても阻害的に働くか、また同じ細胞が哺乳類にも存在し、やはり器官再生・組織修復に阻害的に働くかという観点から研究を進める。 再生芽増殖細胞選択的に発現する遺伝子群の内、il-11やkeratin-11については、ゲノム編集法等を用いて遺伝子機能を抑制することにより、尾再生に促進的に働くか、阻害的に働くかを調べる。不応期には「自己抗原」として免疫細胞から攻撃されることで再生に阻害的に働く場合でも、再生可能期には尾再生に必須の分子として機能する可能性も考えられる。同様に、上記のPhyH-likeについても、遺伝子機能の抑制により、再生芽や通常の発生段階での機能解析を行う。
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