研究課題
生体内において腫瘍形成能を有するとされるがん幹細胞(Tumor initiating cell; TIC)は、主に免疫不全マウスを用いた解析で同定されてきた。しかし、TICと呼ばれるような集団であっても免疫学的に正常な個体内に接種すると腫瘍形成がほとんど見られないケースもある。本研究では、生体内における腫瘍形成という現象をがん細胞と免疫細胞の相互作用の結果と位置づけ、「免疫学的に正常な個体内で造腫瘍能を発揮する真のTICとは何であるか」を明らかにすべく研究を実施した。TIC/非がん幹細胞(non-TIC; nTIC)と免疫細胞を共培養して解析したところ、TIC/nTICは自然免疫細胞と異なる相互作用性を有することを見出した。そこでTIC/nTICの産生する分泌因子のスクリーニングを行い、TICで高発現する免疫関連因子(TIC immune factor; TICIF)を同定した。TICIFをノックアウトした細胞株(TIC-IFKO)を樹立し、免疫細胞との相互作用性を再度解析したところ、部分的ではあったが、TIC-IFKOの免疫細胞相互作用性はnTICと類似したものとなった。よって、TICの有する特徴的な免疫細胞相互作用性はTICIFにより担われていることが明らかとなった。続いて、TICの産生するTICIFが免疫学的に正常な個体内で造腫瘍性に及ぼす影響を明らかにする目的で、TIC/TIC-IFKOを野生型個体に移植したところ、TIC移植群では全例死亡したものの、TIC-IFKO移植群は100日を経過しても概ね90%以上の個体が生存し続けた。一方で、重度免疫不全マウスにて同実験を施行したところ、両群にて全例が死亡した。これらの結果から、TICは、TICIFを産生することにより免疫学的に正常な個体内で造腫瘍性を発揮していることが明らかとなった。
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