胃癌細胞と癌関連線維芽細胞(CAF)の相互作用に基づいた、癌細胞死について更に解析を進めた。CAFは一般的に癌細胞の増殖を促進する機能が知られている。確かにCAF培養上清に含まれるサイトカインは、用いた胃癌細胞のSTAT3経路の活性化などにより癌細胞の増殖を促した。しかし、癌細胞とCAFの共培養においてアポトーシス阻害薬ZVADを添加すると癌細胞はさらに増加する。その差分に相当する約25%の癌細胞が、CAFによるアポトーシスを示すものであった。この癌細胞死はCAF領域との接触面において観察され、一方CAFの培養上清では誘導されない事から、癌細胞とCAFの直接接触依存性であり、そのメカニズムとしてデス受容体DR4-FADD-caspase-8経路を同定した。死んだ癌細胞はアポトーシス小胞を多量に産生し、CAFに対してその浸潤能を促進するフィードバック効果を見出した。In vitroでのゲル浸潤パターンの観察から、CAF依存性の癌細胞死はCAFリード型の癌浸潤を形成し、癌細胞死の阻害は癌細胞を増加させるが浸潤様式としてはむしろ圧排性の緩徐で限局的な浸潤モードに変換させた。マウス胃壁に移植した癌細胞の観察でも、アポトーシスの程度と腫瘍の浸潤モードの選択性は、ゲル浸潤アッセイと一致した結果が得られた。つまり逆説的であるが、CAF依存性癌細胞死はアポトーシス小胞などの作用によりCAFを活性化し、CAF牽引型の癌浸潤モードを形成する事で、むしろ悪性度の高い播種型の腫瘍を造る結論が得られた。これらの結果は、播種型癌の形成機序について新知見を与えると共に、治療後の腫瘍の再発や悪性転化の機序として示唆を含むものであり、H28年度に論文報告した。
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