研究課題/領域番号 |
26640070
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
高橋 智聡 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (50283619)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | がん / 炎症 / 代謝 / サイトカイン / ケモカイン / 乳がん / 微小環境 |
研究実績の概要 |
RBがん抑制遺伝子産物がほ乳類細胞周期制御(細胞自律的機構)の中心分子であることは疑いない。しかし、ほ乳類のものとよく似たサイクリン群やクロマチン再構成因子複合体を具する酵母がこの遺伝子を持たず、植物も含め多細胞生物への進化とともにこの遺伝子が出現したのには、深い理由がある。我々は、がんの悪性進展過程において頻繁に起こるRB不活性化が、膜脂質成分の活発な構成変換や種々のサイトカイン・ケモカイン・増殖因子の分泌を促進し、隣り合う細胞や細胞外の環境への活発な働きかけを誘導する現象を見出した。本研究は、まずRBの非細胞自律的な機能を徹底的に探索することによって、がん微小環境研究に新展開をもたらし、単なるRB研究を超えて、新規かつ汎用性のある制がん標的分子を発見することを目指した。RB不活性化によって誘導されるIL-6-STAT3 サーキットが肉腫、乳がん、前立腺がんの自己複製に寄与することを見出した。RB不活性化によるIL-6の発現誘導には、脂肪酸酸化の亢進によるミトコンドリア活性化とそれによるJNK活性化が寄与することも判明した。また、STAT3の活性化は、いわゆるLIFシグナルの活性化に加え、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体IおよびIIIの発現を制御する事によってミトコンドリア由来の活性酸素を抑制し、細胞の自己複製能の維持に関わることも明らかになった。RB不活性化細胞がCCL2およびCCR2に依存して免疫不全マウスにおける腫瘍原性を発揮すること、この現象に免疫細胞のリクルートが関わること等が明らかに成り、RBステータスと腫瘍微小環境の関係についても情報を蓄積している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
RB-IL-6-STAT3サーキットと乳がん自己複製・薬剤耐性に関する知見を論文としてまとめ、投稿中である。がん細胞自身の分泌するサイトカインが自身の自己複製を促進するという新しい知見である。Il-6のミトコンドリア呼吸鎖への作用も更に新しい知見であり、サイトカインとがん細胞の関係について、今後も理解を深めることができるはずである。MMTV-Cre;Rbflox;p53-/-マウスにIL-6およびCCR2を欠損する遺伝子背景に導入する作業も進展し、徐々にデータを得つつある。LC-MS/MS法による脂質測定が軌道に乗り、本年度はマウス線維芽細胞におけるRB不活性化の脂質代謝へのインパクトを相当程度正確に測定した。この系を、マウス乳がんモデルやヒトがん細胞株へと拡張しつつあり、今後新知見を得ることを期待している。以上の理由から、本年度の本研究は予想以上の成果をあげたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
IL-6抗体薬の乳がんへの適応を検討するために、MMTV-Cre;Rbflox;p53-/-マウスおよびヒト乳がん細胞株を移植したNOD/SCIDマウスにアクテムラ(商標)を投与する実験を進める。ヒト型抗体、マウス型抗体を用い、がん細胞自律的な作用と微小環境の作用を区別し、これまで得てきた知見の臨床的意義を掘り下げて探索する。一方、Rbflox;p53-/-マウスから樹立した乳腺上皮細胞においてRbを欠損させることによって、細胞増殖に影響すること無しに、自己複製能が誘導される系を確立したので、RNAシーケンス法によって解析、乳がん自己複製に関与する遺伝子群を網羅的に探索する。これまでの解析では、CCL-5と乳がん自己複製の関係が見えてきた。CCL5は、Ras変異細胞の生存にも密接に関わることが示されている。がん化シグナルと炎症の関係は、今後がん生物学の新しい一分野を形成する可能性がある。さらに我々は、やはり乳がんの系を用いて、異なる自己複製能を有する細胞が接した場合の細胞競合を観察する系も確立しつつあり、主としてIL-6のこの系における役割を探索しつつ、新知見の獲得に挑む。
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