研究実績の概要 |
常軌を逸した中心体の生合成は中心体の機能障害を引き起こし、ゲノムの不安定化と異数化につながり、さらに90%以上のヒト固形腫瘍で異数化が確認されている。 真核細胞の核膜孔を形成する核膜孔複合体(NPC)は、ヌクレオポリンと呼ばれる30種類以上のタンパク質から構成される巨大タンパク質複合体であり、核-細胞質問の物質輸送を制御している。当初ヌクレオポリンは、有糸分裂初期に核膜の崩壊と共にばらばらに分解されると、有糸分裂後期に再びNPCとして集合するまで不活性であると考えられていたが、最近の研究ではいくつかのヌクレオポリンの中には紡錘体形成、及び、有糸分裂後期開始に影響を与え、細胞の癌化に関与するものがあることが明らかになってきた(Funasaka and Wong, Cancer Metasta Rev 2011; Nakano et al., Cell Cycle 2011)。さらに、いくつかのNPCタンパク質が有糸分裂期に中心体に局在していることが見出されている。 研究課題では、NPCタンパク質の中心体/中心体小体の正常な生合成を始め、分離・複製・成熟に関与していると仮定し、NPCタンパク質の中心体への関与とそのメカニズムを明らかにすることを目的としている。 当該年度は、NPCタンパク質の一つであるTprが、中心体の分離・複製・成熟に重要な役割を持ちがん細胞において過剰発現が見られるAurora A kinaseと有糸分裂期に相互作用していることを見出した。また、Aurora A kinaseの阻害は細胞に染色体の異数化を引き起こすが、Tprの発現抑制も同様に異数化を引き起こした。Aurora A kinaseと直接結合するTprのMドメインに、Aurora A kinaseが過剰発現している癌において治療効果が期待できることを示唆した(Kobayashi et.al., Cell Cycle, 2015)。
|