近年、これまで機能しないとされていた長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)が多種存在し、遺伝子の転写や翻訳の制御に重要である事が示唆されている。本申請では、癌の自己複製、転移、再発、抗がん剤耐性等癌幹細胞が有する性質を制御するlncRNAを同定することを第一目標としている。 H26年度は、癌の自己複製に関与する事が予想されるlncRNA であるANRILについて、活性型Ras等の癌化シグナルによる発現制御に関し、解析した。その結果活性型Rasの導入により発現が著明に抑制され、アポトーシスに関与するlncRNA PANDAは逆に増加する事を見いだした。H27年度はPANDAの新規機能の解析を行なった。その結果、PANDAは癌抑制遺伝子産物であるp53の安定性に関与していることが判明した。p53が正常なU2OS細胞において、siRNAによりPANDAをノックダウンするとp53のmRNA量は減らなかったが、p53タンパクが減少した。この減少はプロテアソーム阻害剤の添加で解消された。さらにサイクロへキシミドを用いた安定性試験を行ったところ、PANDAをノックダウンするとp53タンパク質の分解速度が速まっている(不安定化している)ことが判明した。エトポシド等の抗がん剤処理により細胞中のp53はリン酸化され安定化するが、この時PANDAをノックダウンするとp53タンパク質の安定化は抑制された。以上よりPANDAは癌抑制遺伝子産物であるp53の安定化に寄与しており、癌抑制遺伝子としての機能を持っているlncRNAであることが示唆された。
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