研究課題
われわれの体の発生や病態において、単一の細胞が動き回るのではなく、小集団や胞巣を形成して間質を移動する「集団的移動(collective migration)」という現象が高頻度に観察される。個体発生期における神経芽細胞の移動やがんの浸潤過程における移動が代表的な例である。本年度はわれわれが発見したアクチン結合タンパクGirdinが神経芽細胞の集団的移動に関与するかどうか解析を行った。脳室下帯で新生する神経芽細胞は吻側移動経路(rostral migratory stream:RMS)と呼ばれる長い距離を移動し、嗅球への到達過程で、「chain migration」という集団的移動を行うことが知られている。GirdinのノックアウトマウスおよびGirdinの機能を障害する変異を導入したマウスでは、chain migrationに異常が生じ、神経芽細胞が嗅球に到達できず、嗅球の低形成が生じた。免疫染色により細胞接着に関わる分子の発現解析を行った結果、Girdin変異マウスでは野生型マウスと比較して、N-Cadherinの発現低下が観察された。一方、神経芽細胞の集団的移動に必須されていたる別の細胞接着分子polysialyated neural cell adhesion molecule (PSA-NCAM)の発現や細胞内局在には変化を認めなかった。今回の結果は、GirdinがN-Cadherinの膜局在や細胞内動態を選択的に制御していることを示唆している。すなわち、Girdinは細胞接着部位におけるN-Cadherinの膜輸送及び細胞間接着のダイナミックなリモデリングの制御により神経芽細胞の集団的移動に関わっている可能性がある。Girdinはがん細胞の浸潤、転移能にも重要な役割を果たしており、がん細胞の集団的移動に同様な機序が関わっていることが示唆される。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 463 ページ: 999-1005
10.1016/j.bbrc.2015.06.049
http://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical/dbps_data/_material_/nu_medical/_res/topix/2014/ark-girdin_20150303jp.pdf