研究課題/領域番号 |
26640078
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡田 雅人 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (10177058)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | がん / 老化 / ハダカデバネズミ / mTOR |
研究実績の概要 |
近年、ハダカデバネズミやメクラネズミといった地下生活を営む齧歯類が、長寿命でかつがんを発症しないとうきわめて興味深い特徴を持つことで注目されている。また、彼らから取りだした細胞も、老化しないでかつがん化しないことから、その特性が細胞レベルで備わっていることが明らかとなっている。本研究は、こうした彼らの戦略に学ぶことによって、老化およびがん化に対する新たな防御策を開拓することを目的とする。特に、ハダカデバネズミ細胞の特性と老化およびがん化の制御に関わることが示唆されているmTORC1シグナルとの関連性に注目して解析する。本年度は、この目的を達成するために以下の研究を行った。 ハダカデバネズミの皮膚から調製した線維芽細胞について、mTORC1シグナル関連分子のタンパク質およびmRNAの発現量、リン酸化などの翻訳後修飾を解析した。その結果、ハダカデバネズミ細胞では転写因子FoxO3aの挙動がマウス細胞と大きく異なり、恒常的に細胞核内に局在することが確認された。また、これと同様のFoxO3aの核内移行が、mTORC1の活性化に必須の役割を担うリソソーム膜アンカータンパク質p18の欠損細胞においても観察された。さらに、p18欠損細胞が、細胞増殖速度が極めて遅いことやがん遺伝子によるがん化に抵抗性を示すことなども明らかとなり、ハダカデバネズミ細胞の特性とmTORC1シグナルおよびFoxO3aが密接な関係にあることが明らかとなった。そこで、老化・がん化制御におけるFoxO3aの重要性をさらに検証するために、正常のマウス細胞に核移行型のFoxO3aを誘導的に強制発現する実験系を作製し、現在その細胞の解析を進めている。また、マウス個体レベルでの老化やがん抵抗性に対するFoxO3aの意義を検証するために、核移行型のFoxO3aを表皮細胞特異的に発現するマウスの作製を行いその系統を樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、ハダカデバネズミ細胞を特徴付ける分子として、mTORC1シグナル経路の下流因子FoxO3aの重要性を示唆する知見を得、それを検証するためのin vitroおよびin vivo実験系の構築を行った。それらの解析が若干遅れ気味であるが、重要な解析標的を絞り込むことができた点では一定の成果があったと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、これまでに作製したマウス細胞でのFoxO3a発現誘導系の詳細な解析を加速して行うとともに、ハダカデバネズミ細胞のFoxO3aの機能阻害実験系をも併せて行うことにより、in vitroでの機能検証を推進する。また、核移行型のFoxO3aを表皮細胞特異的に発現するマウスについても、そのマウス組織の老化やがん化に対する影響を迅速に検討し、生理的な意義を明らかにする。さらに、以上の知見に基づいて、ハダカデバネズミ細胞においてFoxO3aが恒常的に核内移行する分子機序の解明へと研究を深化させる予定である
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、実験系の作製が中心となり、解析実験に至らなかったため経費を節約することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、作製した実験系(細胞系とマウス個体)を用いた実際の解析実験(細胞培養、タンパク質解析や遺伝子改変マウスの維持管理など)に全ての助成金を使用する予定である。
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